TRIZと品質工学は似ている?
 アイデア発想のツールであるTRIZは、品質工学でいう制御因子を効率よく考え出す手段として位置付けるのが普通でしょう。
 しかしTRIZと品質工学は、もっと本質的なところで意外と似ているのです。それは、どちらも最初に機能を考えることを重視している点です。
 ご存知のように品質工学は、品質を考える際に機能を考察することから入ることを推奨しています。品質を改善したかったら品質を測るな、という有名な言葉に、多くの人が悩まされていますよね。
 じつはTRIZ も同じなのです。問題点を解決する直接的なアイデア出しを行うのでなく、本来の機能を整理するところから始めるのです。そのやり方とは、まず要求されている機能を、できるだけ抽象的な言葉で言い表します。そして、TRIZに用意されているさまざまなツール群を使い、アイデアの宝庫であるデータベースの最適な部分に効率良くたどり着くのです。
 TRIZというと、矛盾マトリックスとか進化の法則とかの様々なツールが有名です。あまり知られていないのですが、機能から考えるという基本に関しても、実はきちんと言及しているのです。
 TRIZがこのように機能を重視する理由は、心理的惰性を排除するためと言われています。心理的惰性とは、人間は解決策をすべて考えているつもりでも、生半可な知識や経験に基づく思い込みが邪魔をして、実はもっと良い解決策があるのにそれに気付かないことを指します。
 機能を考え、それを抽象的な言葉で表現すると、思い込みやこだわりがなくなり考え方の視界が一気に広がるのです。そうなれば、他の技術分野のアイデアからでも、触発されるようになります。
 数百万件の特許から抽出したと言われる有名なTRIZデータベースでさえも、思い込みが強いままの脳で使ったら大きな効果は期待できないのです。したがって、大きな成果を生むためには、最初に機能を考えることを推奨しているのだと思います。
 このようなTRIZの考え方を参考にすると、品質工学でも機能をもっと簡単に扱えるのではないでしょうか。品質工学で機能を考える理由は、技術の多面的な性質を数少ない測定値で表現するためです。目的の仕事をするために必要なエネルギーとか指示値とかを、素直に考えてみればいいのです。
 さて、TRIZと品質工学に思いがけない共通点がありました。しかし考えてみると、機能を考えるということは、TRIZや品質工学ばかりではありません。VAやVEでも機能を考えて、その機能を代替できる手段を検討することで、コストダウンや改善を行うのです。
 あまり難しく考えず、機能を当たり前に考えるという習慣をつければいいのではないでしょうか。

複雑化は良いこと
もうひとつ共通点を紹介しましょう。
 TRIZのアイデア発想の中に、「分割してみよう」という考え方があります。40個ある発明原理と呼ばれるヒントの中でも、特に頻繁に使われるヒントのひとつです。それは何故でしょうか。
 分割すると普通は構成要素の数が増加します。端的に言えば、部品点数が増加するのですが、そうすると「全体の信頼性が減少する」と心配する人がいます。単純に考えると、一個の信頼性が90%の部品を十個使えば、システム全体の信頼性は約35%に落ちてしまう計算になりますからね。
 しかし現実はどうでしょうか。技術が進歩すると、より複雑な製品が開発されます。それらは、どんどん多機能になっています。つまり現実は複雑化することにより、多機能で高信頼化しているのです。
 このように分割して複雑にすることは、良い結果を生むことが多いのです。なぜなら、実際の製品やシステムに要求される機能は、単純でないのが普通だからです。複雑化はメリットをもたらすことを、多くの事実が証明しているのです。
 例えば筆記用具を考えてみます。一番簡単な筆記用具は、鉛筆ですね。鉛筆は、芯が減ってくると削らなければなりません。また削った直後と少し使った後では、線の太さが変化します。
 文字を書く道具という機能であっても、このように要求特性はいろいろあります。芯が減らないように出来ないか、線の太さが変わらないように出来ないか。それらの問題を解決したのは、もちろんシャープペンですね。
鉛筆とシャープペンを比べたら、その複雑度は比べ物になりません。複雑な構造のシャープペンだからこそ、削らなくて良い機能、線の太さが変わらない機能を、同時に達成できたのです。分割すれば、それぞれを別々に最適化できるからです。
 それに比べて単純な構造では、一つの部品に複数の特性が同時に要求され、とても多機能性と高信頼性は期待できないでしょう。
 もうお気付きでしょう、品質工学もシステムは複雑でないと改善できないと主張しています。特にロバスト性(信頼性)の改善は、制御因子の数の多さが勝敗を決めます。その理由も同じくすでに説明したとおりです。