競馬・乗馬・馬文化 しげさんの馬三昧

私の馬は夜疾駆る

寺川俊司Weekly競馬Essay

バックナンバー(2002春競馬 bU9〜bX0)

bX0 2002.6.9 エプソムC(東京) ジョウテンブレーヴ エアスマップ

一丁ここは馬単で蛯名のジョウテンブレーヴ。2着含みは横山エアスマップ。

bW9 2002.6.2 安田記念(東京) アドマイヤコジーン ダンツフレーム

アドマイヤコジーン、そして後藤浩輝Jに申し訳なかった・・・。

bW8 2002.5.26 日本ダービー(東京) タニノギムレット シンボリクリスエス

タニノギムレットで決まりです。武豊は今度こそ持ってきます。

bW8 2002.5.19 オークス(東京) スマイルトゥモロー チャペルコンサート

チャペルコンサートとの馬連でプレゼントするってのもいいよな。 

bW7 2002.5.12 京王杯スプリングカップ(東京) ゴッドオブチャンス グラスワールド

人気薄もこの距離ベストのゴッドオブチャンス・・・・。 

bW6 2002.5.4 NHKマイルカップ(東京) テレグノシス アグネスソニック   

内国産馬が初優勝をあげるチャンスとみた。 

bW5 2002.4.28 天皇賞(京都) マンハッタンカフェ ジャングルポケット

マンハッタンカフェ⇒ジャンポケ⇒トップロード、3連単だ。    

bW4 2002.4.21 フローラS(東京) ニシノハナグルマ マイネミモーゼ

ハナグルマにのって信じてみるのも乙なもんじゃないか???    

bW3 2002.4.14 皐月賞(中山) ノーリーズン タイガーカフェ  

“銀行馬券”って言葉、もはや死語だね。  

bW2 2002.4.7 桜花賞(阪神) アローキャリー ブルーリッジリバー 

「咲いた桜に なぜ駒つなぐ 駒が勇めば花が散る」   

bW1 2002.3.31 産経大阪杯(阪神) サンライズペガサス エアシャカール 

サンライズペガサスで堅いでしょうね。安勝は阪神の芝二千は鬼です。   

bW0 2002.3.24 高松宮記念(中京) ショウナンカンプ アドマイヤコジーン

上がり馬の4歳馬ショウナンカンプなんかも含めて、人気は割れる筈。    

bV9 2002.3.17 スプリングS(中山) タニノギムレット テレグノシス

軸は無理せずともタニノギムレット。・・・・あとはトニービンのテレグノシスまで。

bV8 2002.3.10 フィリーズレビュー(中山) サクセスビューティ キョウワノコイビト

今週の勝負は中山牝馬S、ダイヤモンドビコーからティコティコタックへ1点。

bV7 2002.3.3 弥生賞(中山) バランスオブゲーム ローマンエンパイア

狙うならバランスオブゲームでしょ。相手も(父)のローマン・・・・。

bV6 2002.2.24 中山記念(中山) トウカイポイント トラストファイヤー

情けないほどの下手糞予想をしてしまった・・・・。

bV5 2002.2.17 フェブラリーS(東京) アグネスデジタル トーシンブリザード

アグネスデジタル、トーシンブリザードの2頭。これが勝ち負け。

bV4 2002.2.10 ダイヤモンドS(東京) キングザファクト フサイチランハート

東も西も3着じゃ情けない・・・・。

bV3 2002.2.3 共同通信杯(東京) チアズシュタルク サンヴァレー

関西期待のチアズシュタルクの切れ味勝負を注目したい。

bV2 2002.1.27 東京新聞杯(東京) アドマイヤコジーン ディヴァインライト

穴は帰ってきたGT馬、アドマイヤコジーン。

bV1 2002.1.19 AJC杯(東京) フサイチランハート スパークホーク

一皮剥けたスパークホークも怖いし、素質開花で江田照のフサイチランハートも気になる。

bV0 2002.1.12 京成杯(東京) ヤマニンセラフィムローマンエンパイア

西のヤマニンセラフィムにローマンエンパイアでスンナリ・・・

bU9 2002.1.5 中山金杯(東京) ビッグゴールド ⇒ タフグレイス

ここはイキのいい関西のビッグゴールドから手広く流そう・・・

 

bX0 エプソムC (2002.6.9) 一丁ここは馬単で蛯名のジョウテンブレーヴ。2着含みは横山エアスマップ。

 

 愛読書の東スポをはじめとして、いくつかのスポーツ新聞には毎日必ず眼を通す。もちろん競馬面をチェックするためだ。しかし、これまではサッカーの話題はすっ飛ばしていた。だって選手の名前どころか、Jリーグが何チームあって、どんな仕組みで覇を争っているのかすら知らないのだから。プロ野球のニュースくらいは酒場での社交辞令のためというか、紳士の嗜みとしてざっと読んでいたけれど・・・

 その私がワールドカップが開幕してからこっち、熱心なサッカー面の読者となった。国対抗戦だし、予選リーグと決勝トーナメントという試合のシステムも分かりやすい。だいいち、さすが国際レベルの選手が揃っているだけあって、試合を見ても面白い。だから、情報を仕入れたくなる。

 ってなわけで俄かサッカーファンと化した私は火曜日の日本―ベルギー戦、6時のキックオフを前に早々と暖簾を仕舞った新宿・中井の手打ち蕎麦「又八郎」で観戦した。蕎麦屋の久はちょいと年季の入ったサッカーファン。だから、見所なんぞをご教授いただこうというわけ。久がかねて用意していたキリンビールの日本代表選手のイラストデザイン入りアルミボトル缶(当然、久は「すし哲」で分けてもらった応募シールで当てた「勝ちT」を着込んでいる)を何本も空けながらだ。

 「そこだイケぇー!」「よっしゃあ」などとと、府中のゴール前さながらに、拳を突き上げ叫びながら見てた。後半の先制されたすぐ後の同点シュート、さらに逆転シュートで血湧き肉躍る興奮振りに我ながら驚く。しかし、さっきから、どうにも納得できぬことがある。

 「あのさ。反則をとるときって何か基準があるのかい。どうもさっきから日本に辛いような気がするんだけどさ」

 「そうですね。いまさっきの柳沢が倒されたのはPKでもいいですよね」

 久も不満そうである(翌日の東スポでは何故か蝶野が怒っているのが1面トップであった。これもよく分からない)。そしたら今度は稲本の幻の3点目である。うーん。スポーツにおけるレフェリー問題は根が深いなぁ。

 「そんなにズルイ動きだったかい?さっきの赤い悪魔の斜行なんて柳沢を転ばしたんだぜ。いてみりゃあ落馬だ。なんでジャッジが違うんだよ」

 久に食ってかかると、「わかりませんね。普通はホームに有利な判定になるんですけどね・・・」と、困った顔している。久が悪いんじゃないから、気を取り直して応援を続けたが、結局引き分けたから腹の虫が治まらない。

 「パトロールフィルムの導入ってのはどうだろう。疑惑の判定があったらすばやく審議の青ランプ。そしてターフビジョンに映しだすんだ」

 「そんな悠長なことやってられませんよ。試合は流れてるんだから」

 「そうか・・・ダメか。だいたいさ、日本代表の奴らも悪いんだよ。がそろいも揃って、赤だ黄色だとアタマ染めてるから、ホームの日本は赤シャツの方だと審判に誤解されたんじゃないか?」

 久は、私のお門違いの鬱憤晴らしを聞いて、「目立つためにやってるらしいですけど。確かに黒髪の方がかえって目立つかもしれない・・・」と苦笑しながら言った。

 今週の日曜は夜にロシア戦がある。その前に、エプソムカップをビシっと当てて、府中の酒場でゆっくり観戦するかな。いや、大きく取ったらタクシーで新横浜に乗り付けて、ダフ屋からチケット買ってもいいな。

 しかしながら、このGVは実にワケのわからぬメンバーである。力関係もはっきりしないし、フルゲートで乗り替わりも多い。だが、一丁ここは馬単と3連複の予行演習だ。ナイスプレー、当たりの騎乗を期待できる馬と騎手で勝負するかな。蛯名のジョウテンブレーヴ、柴田善臣ビッグゴールドの順で。2着含みは横山エアスマップ、藤田アドマイヤカイザーか。これらを組み合わせて3連複。

 日本がロシアに負けた場合も、エプソムカップを外した場合も、来週の夜の酒場でのエクスキューズは考えてある。「なーに、たいした問題じゃあない。ワールドカップはこれから決勝リーグだ。競馬も宝塚記念が控えている。面白くなりそうだぜ」って言うだけのこと。

ワールドカップ入場券.bmp (523974 バイト)

W杯日本初勝利 【日本vsロシア】 お宝チケット

bW9 安田記念 (2002.6.2) アドマイヤコジーン、そして後藤浩輝Jに申し訳なかった・・・。

 

 “馬混みを捌く”ってのが如何に難しいものか。先週の府中であらためて、よぉーく理解した。とは言っても、ダービーでの「蛯名の位置取りがどうの」とか、「やっぱり力のある馬なら外に出すべきだ」とかの話ではない。

 今回の開催で府中が長期休養に入るというので、ダービーの日曜は久し振りに朝イチで出かけた。何時もは京王線の府中から大国魂神社の脇の専用ロードを歩いて向うのだが、土曜の夜は酔いつぶれて登戸のヤスさんトコに泊めてもらったから、南武線で府中本町に出た。他人はどうかしらないが、私は競馬場に向う時、どうも気が急く。焦れて、はやく、早く着きたいと思うから、自然と足ばやになっちゃう。

 「おーい、テラ。こんな朝っぱらから、そんなに入れ込んでどうするよォ。まだ、十分間に合うってば」

 叫ぶヤスさんの言葉を背中で聞いて、南武線から吐き出された人波に流された。自動改札の扉がガシャンと開いて競馬場までの陸橋に出ると、もうダメ。すぐ前でベタベタ、タラタラと歩いている学生風のカップルや、勝馬睨みながらフラフラしている雪駄履きのジイさんが邪魔でしょうがない。うーん、イライラする。一瞬、前が空くのだが、そこに突っ込んでいくとナナメ前方のちょっと危ないコワモテ二人組と接触、落馬しかねない。陸橋は府中県道を渡るのに左周りに差し掛かるから少し外が空く。よし、ここは大外に出して追い込もうと判断、コーナーをぶん回したが、この時間に反対側から歩いてくる奴がいる。たたらを踏んだものの、どうにかこうにか馬鹿ップルと斜行オヤジはかわした。

 ようやく、入り口ゲートのオネエチャンに前売り入場券を渡すが、半券が欲しいのになかなかうまく切って渡してくれない。あーもどかしい。しかも、場内に入ってから、新スタンドの工事現場が邪魔でパドックまでなかなか届かない。でも、トキノミノルの前のパドック定位置にたどりついたらなんだか満足した。まだ、闘えるって気がした。見てくれこの脚ってなもんさ。

 ひと息ついて思ったのは、馬混みを捌くのも大変だが、足下と馬場状態も走りにかなり影響するなぁってことである。

 私の、履いてからかれこれ3年選手になる革靴は、歩き方が悪いせいもあって踵がナナメに磨り減っている。入場門までの陸橋のタイルはノメってしょうがなかった。また、工事現場前、1コーナー横の観覧席のバンクではズリっと滑って、外に持ち出せなかった。そんなんで、最後の目標にマークしていたGOOD LUCKの帽子をハスに被ったオネエチャンを差し切れなかったのである。まだ脚は余ってた・・・と思う。

 火曜日の夜、すし哲でこんな話をすると、何時ものように甘木君が絡んできた。

 「んで、◎打ったけどコケたノーリーズンもしょうがないよ。ってんでしょ?」

 すると、すかさず蕎麦屋の久が、「いや、テラさんは過去を振り返りませんよ。もうダービーのことはいいですよね。『安田記念だ。マイルだ。出てくる馬の靴の具合はどうか、コース適性はどうか』ってことですよね」と言う。

 久はこのダービー、タニノギムレット−ノーリーズンの1点勝負だったから、話を安田記念に持っていきたいのは私と同じだ。

 頭の構造が簡単に出来ている奴らばかりだから、思惑通りに話は進む。

 「香港の2頭から流すってのどうです。1年置きで、今年はくる年らしいっすよ。日本馬なら、トロットスターかな。レーズ後、『まだまだ終わってなかったか』、ってなことになるかも」

 「ダメダメ。マイルの最強馬はエイシンプレストンで決まり。日本のG1とらせて下さいよ」

 「本格化したミレニアムバイオがくさいぜ。同じ最強4歳世代のダンツフレームも京王杯を叩いて万全。この2頭はちょっと美味しいぜ」

 甘木君、税理士の森さん、修さんと、居合わせた面々がダービーの余韻もそこそこにゴタクを並べ始める。

 さて、私の狙い目は、芝に替わって走り出したグラスワールド。家賃が高いかもしれないが、名前からしても芝で走って当然だ。ワールドカップも始まるし、前走並みの脚を見せてもらいたい。そして復活期待のゼンノエルシドか、香港マイルでの凡走はツメに問題があったらしいが、靴が磨り減ってると走れないもんなぁ。海外G12勝に敬意を表してエイシンプレストン、アラン調教師が狙ってきたジューンキングプローンも府中の馬場に合いそうだから押える。

 「なーんです。偉そうなこと言って結局、サッカー馬券ですかぁ?・・・・ん、面白そうですね」

 馬鹿にしてるんだか何なのか。甘木君が乗ってきそうなのが気になるけれど、とりあえずグラスワールドに来てもらって新しい靴が買いたい。我が愛用の靴はダービー後の土砂降りンなか、無理使いした結果、とうとう予後不良となったのだ。

 

bW8 日本ダービー (2002.5.26) タニノギムレットで決まりです。武豊は今度こそ持ってきます。

 

 5月半ばってのにグズった天気が続いているが、水曜の夜は梅雨明けを思わせる爽やかさだった。にもかかわらず、中井の「又八郎」からは甘木君と修さんの意地悪コンビの気味の悪い声が響いている。

 「安勝サスガ−田中剛サンヴァレーは絶対に外せねえぞ。それとマル外シンボリクリスエスとデザーモのマチカネアカツキもな」

 「地方の雄と障害騎手、はたまたマル外と外人騎手の組み合わせですか。うーん、その線もありますね。いずれにせよ抽選組は要注意。モノポライザーが運の悪さを遺憾なく発揮して外れるでしょ。そして、駆け込み出走の上村ゴールドアリュールが本番でバキっと来ちゃう。ヒモも横典ローエングリンで超万馬券をゲット。あっ、勝負掛かり4頭出し藤沢和厩舎の人気薄ヤマノブリザードとか忘れ去られた最強馬アドマイヤドンでも美味しいっす。イヒっヒヒヒ」

 「イヤ、それはムシが良すぎる。ノーリーズンとの組み合わせくらいで勘弁してやろうぜ。ダービーは運の強い馬が勝つってな。だから、ユタカに乗り替わりだろうが、勝ちきれないタニノギムレットは消し。ウヒョヒョヒョヒョ」

 まったく、ジメっとしたダービー穴馬券予想である。なんでも、今年のG1は「後から考えると悔しい万馬券」がトレンドなんだそうだ。ま、絞り込めないモンだから、好き勝手なコト言ってるだけのことだが・・・だが、この二人にいつまでも喋らせておくと、年に一度のダービーウィークなのに気分が晴れない。正統派の蕎麦屋の久も苦笑いだ。

 とは言うものの、久にとって見れば客は客だから、さすがに口を挟めない。だから、私がたしなめる。

 「甘木ぃ、節操の無い奴だなおまえは。正月の頃は『モノポライザーですよ。超イイっす!クラッシック楽しみだな』なんて言ってたこと、もう忘れてんだな。修さんも、ちったァ真面目に予想したらどうです」

 修さんのダミ声と甘木君のテンションの高い声がピタリと止んだ。甘木君が「じゃあ、先輩は真っ当な予想してくれるんでしょうねぇ」と、舐めつけるような視線を飛ばす。

 うっと言葉に詰まった私に代わって、久がガマンならぬというように声を発した。

 「タニノギムレットで決まりです。武豊は今度こそ持ってきます。皐月賞馬のノーリーズンとの一騎打ち。それが、ダービーです」

 きっぱりと言う久を見て、涙が出てきた。潔いなぁ。ホントのコト言えば、私は気になる馬が多すぎて、修さんと甘木君の分かったような分からないような予想に心を動かされていたのだ。今年のダービーこそ、パラパラ買いは止めよっかな。ダービーのパラパラ買いで取れなかった時の哀しさは、後々まで尾を引くもんなぁ。

 よしっ、ここはこれまでの反省を踏まえ、新たなスタートを切るダービーとしよう。本命は皐月賞でチェックの甘さを思い知らせてくれたノーリーズン。相手は、青葉賞勝ちの上がり馬シンボリクリスエス、安勝のサスガ。連下にニホンピロウイナーのメガスターダムまで。

 これを聞いて甘木君「せんぱぁーい。トニービンのテレグノシス−クリスエスのシンボリクリスエスと『オヤジの弔い合戦』2頭ってのもあるんですけど、どうでしょう」と、またバカなコトを言い出す。修さんまでも「ははーん。やっぱテラもタニノギムレットの運の無さを見放したな。そんなら、ゴールドアリュール−シンボリクリスエスの『連勝馬』2頭もあるぜ」と、懲りた様子がない。相当に、酒がまわっているようだ。

 「そりあえず、今週は皆、ダービーで楽しめばいいさ」

 と、笑いながら久に言った。

 久は「そうそう、走るまではね。あれこれ楽しみましょうや」と、店仕舞いを始める。言うまでもなく、これから呑みに繰り出そうという合図。

 やれやれ、今週は飲み代が何時も増して嵩むのは避けられない。

 

bW8 オークス (2002.5.19) そうだな、チャペルコンサートとの馬連でプレゼントするってのもいいよな。

 

  新宿・中井の“純情”手打ち蕎麦「又八郎」の主、蕎麦屋の久は、オークスには必ず忘れな草賞の勝ち馬を買う。長い付き合いだから、その事は知っていたが、今年はちょっと入れ込み様が違うのだ。

 「なんでも…ね。94年のチョウカイキャロル、98年のエリモエクセルと、ワールドカップの年は忘れな草賞勝ちの馬がオークス買ってるんです。いやね、東スポに出てたんですけどね…」

 久はこんな事を言うが、入れ込みがキツいのはそんなことが理由ではないことくらいのことは直ぐにピンと来た。だって、今年の勝ち馬はユウキャラットだもんな。

 実は、久にはこの2,3年という間、暖めてきた恋(と言っても独りで暖めてたのだが)があり、そのひとを“最後の女”と決めていた(むろん、自分勝手にである)。そんなことくらいは、様子を見ていればわかる。見え見えなんだから、うん、喋ってしまうと、お相手は久の妹のアキちゃんの同級生、花屋の優ちゃんだ。たまーにアキちゃんを訪ねて「又八郎」に顔を見せるから、私もよく知っているが、シャキシャキした良い娘である。とても、三十路半ば過ぎには見えない…っと、そんあこたぁどうでもいいか。

 「忘れな草賞って言えば、ユウキャラットかい?」

 すっトボけて見せると、久は「そうでしたっけ?」なんて、これまたすっトボけて答える。

 「オークス、逃げて買った馬っていたっけかなぁ。思い出せないな。でも、逃げる馬をゲットして… そうだな、チャペルコンサートとの馬連で、うんキャラットのダイヤモンドかなんかをプレゼントするってのもいいよな」

 思わせぶりに私が言うのだが、久は黙っている。

 それを聞きつけたアキちゃんが、洗いものしてた手を止めて「うん、それがいいよ。お兄ちゃん。私、4月産まれだもんね。ちっちゃいのでいいからダイヤの指輪買ってよ。あっ、テラさんも当てたら頂戴ね」と、口を挟んでくる。まったく話のウラがわかってない様だ。

 「バカだなぁ、指輪をアニキやオレに買ってもらってどうする。ダンナにねだるんだな」と、私は久の顔を見ながら、アキちゃんに言った。

 「ケチねぇ。いいもん」

 兄さんの気持ちを知ってか知らずか、アキちゃんは私を睨んでから洗いものを続ける。久は黙ったまんま…

 本命なきオークス。蕎麦屋の久のように、どういうものであれ物差しがあればいいが、非常に難解だ。小林薫の“グッドラック”を期待してブルーリッジリバーでくか、はたまた桜花賞の雪辱、岡部のシャイニンルビーって線もある。だが、この府中2400での変わり身を期待するならブライアンズタイムの後藤マイネミモーゼ。勝ちきれないでいるが、距離伸びていいと思う。相手は、前走見せてくれたニシノハナグルマとタムロチェリーの復活にかける。あと、相性が良くないフジキセキ産駒だがオースミコスモまで。久の幸せのきっかけになるならば、ユウキャラットに勝たせたいけれど…、展開を考えれば逃げ馬で決まるのは難しいと思う。妙に人気になりそうだし…

 「オークスがどの馬で決まったって、嘆くなよ久さん。ユウキャラットで勝負してみなよ。オークスは来年もあるが、同じ馬は出てこないぞ。それに、オークス馬だけが、いい肌馬にあるわけじゃないしさ」

 今度はアキちゃんも感づいたのか、久の顔をチラっとみてたが、何も言わず黙っている。恐らくアキちゃんも、お兄ちゃんが自分じゃない誰かに指輪上げることのほうが嬉しいのだろうな。   

 

bW7 京王杯スプリングカップ (2002.5.12) 人気薄もこの距離ベストのゴッドオブチャンス・・・・。

 

 仕事柄、遠近に関わらず出歩くことが多い。元来、旅好きだし、尻は軽い方だから、北海道だろうが九州だろうがちっとも億劫じゃないし、目黒や護国寺、日暮里なんて都内の近場だけれどマイナーな場所だってホイホイと出向く性質である。だけど、例えば平塚とか、千葉とか、八王子とか、なーんかちょっと中途半端な距離のトコロに行くのはどうも気分が乗らない。

 木曜の午後、埼玉の上尾まで出向いた帰りに新宿・中井の手打ち蕎麦「又八郎」に寄った。時計はまだ4時過ぎで、陽は高い。蕎麦屋の久は、夜の仕込みの真っ最中だから、ヱビス麦酒を勝手に取り出して呑みながら愚痴った。

 久は笑って、「そんなもんですかね。私なんか、荒川とか多摩川越えれば立派な旅行だって思いますけどねぇ」と言う。久は西新宿の淀橋浄水場辺りの産まれ育ち。今も中井周辺から離れることは滅多にないからそう感じるのだろう。

 だから私は言った。「馬鹿ぁ言っちゃいけない。荒川とか多摩川が通勤の中間点、なんて奴はゴロゴロいるんだぜ。旅行気分なんかになるもんかよ。それにしても、東海道線なら静岡とかさ、中央線なら甲府くらいまで行っちゃえば、ちょっとした旅行気分で車窓を愛でる余裕もあるんだよな。『早めに着くから、名物でも食うか』なんて、心も弾むってもんさ。近場なら近場で、あちこち廻ったって一日のスケジュールは組みやすいんだ。湯島で用事早めに済ませて本郷の定食屋でメシ喰って、お茶の水に出て神保町ブラついて、そんで芝公園でさんざんアブラ売ってから新橋の事務所に帰ったって呑みに行くにはまだ早い…てなもんさ」

 が、久はそれ以上私を相手にせず、仕込みを続けている。しょうがないから、さらにぶつぶつと独り言。

 「それがなんだよ。上尾に行くってなれば、昼日中からロングシートに1時間以上も座ってるだけでも気が滅入るのに、やれ用事が済んだかと思えば、すぐに帰るにしても、ゆっくりするにしてもとりとめがないんだなぁ…千葉だってそうさ。平日に中山はやってないし、仕事ついでに船橋に寄るなんてのもカッコつかないし…。ま、時間にすりゃぁ1日はおんなじ。何処へ行こうが、違いはないんだけどね、気分の問題かね…」

 私のボヤきが聞こえてたのか、聞こえなかったのか、久が小皿をカウンターにトンと置いた。

 「ハイ。小田原名物。小田原なんか、小田急でピューですけどね。結構イイっすよ。これは新宿のデパートでも売ってない地物です」

 ゴールデンウィーク明けの火曜に久が小田原で買ってきたという板ワサを一口囓ってみた。

 「うん。いける」

 満足そうに久は「テラさん。きっと上尾だって、千葉だって、なんかありますよ…」

 不明を恥じた。上尾にもなんか面白いモンあったかもなぁ。どんなコトでも、どんな場所でも、初めから気が乗らないで、敏感に反応しないのでは見えるモノも見えてこない。面白いものも判らない…

 競馬もそう。実は春のG1戦線の中休み京王杯SC。“センヨン”ってピンと来なかったのだ。安田記念の前哨戦って言ってもマイルとは違うし、連休明けで気が抜けてた。「よーし、ここは」って気合い入れて馬柱見た。うーん、この中途半端な距離はぁ… そうだな、このコースでレコードのマグナーテン。相手は人気薄もこの距離ベストのゴッドオブチャンスとトウショウリーブ。このレースはこのレース。安田は安田。面白い勝負が見たい…

 私がサンスポの競馬面から眼を上げて、「小田原辺りの地酒は買ってこなかったのかい?」って訊いたら、久はニコっと笑った。

 まだ、陽は落ちないが、酒にしようか…

 

bW6 NHKマイルカップ (2002.5.4) 内国産馬が初優勝をあげるチャンスとみた。

 

 蕎麦屋の久が天皇賞を1点で取った。「せっかくですからちょっとだけ・・・」って言って、右手で輪をつくってクイっという素振りで口に持っていく。もちろん、私に是非がある筈もない。「又八郎」の暖簾を早めに仕舞って寿司でも摘もうってことになった。西武新宿線の踏切に差し掛かる手前で警報機がカンカンと鳴り出したが、二人して併せ馬のように小走りに一気に渡る。酒呑みにいくときと競馬場に行くときの足取りの軽さよ。「見てくれこのフットワーク」ってなもんだ。

 「すし哲」の引き戸を開ける。と、「ハイ、いらっしゃい」と間髪を入れずに、おかみさんの賑やかな声がした。気分がいい。おかみさんは、久の顔を見るなり、「あっ、そうそう。これ取っといたわよ」と、なにやらイクラの空き箱を手渡す。「すんません」と久は頭を下げている。中には切手よりもっと小さい紙片がいっぱい入っている。はてな?

 「なんだい、それ?」

 私が訊ねると、久は照れくさそうに「キリン麦酒の『勝ちT』の応募シールですよ」と言う。

 なんでも、シールを集めるとワールドカップの日本代表応援Tシャツが抽選で当たるのだが、「又八郎」で出す麦酒はヱビスだから、「集めてないのなら」ってことで「すし哲」のおかみさんにシールを集めてもらってたらしい。「すし哲」は30年前の開店以来、麒麟ラガー一本槍である。

 「ふーん。『勝ちT』ねぇ。そんだけ応募すれば2枚や3枚は当たるだろ。当たったら1枚くれよ。それ着て、ワールドカップのテレビ観戦しようぜ」

 私が冗談まじりで言うと、

 「いいですけど・・・ でも。デザインが何種類もあるんですよ。どれが当たるか判らない」。久は、まだ当たってもいないのに惜しそうにする。

 だから笑って、「ケチだな。じゃ、オレもどっか他の飲み屋でシール貰うとするか」とからかった。

 久は子どもじみた「イヤイヤ」が恥ずかしかったのか、「あれっ。テラさんはサッカーに興味ないんじゃなかったですっけ?」と、照れ隠しのように言う。

 確かに私はサッカーにはほとんど興味がない。足と頭しか使えないんじゃ、まどろっこしいからラグビーの方が性に合う。サッカーボーイよりラグビーボールだ。ただ、ワールドカップはちょっと面白そう。日本VS外国の図式にワクワクするのは、持ち前の小市民根性の為せるトコロでしょうがない。

 「いや、サッカー好きだよ。頑張ってほしいね。カズとかさ、ゴン中山とかにさ」

 私が言うと、店中が笑いにつつまれた。訳が分かぬままポカンとしてたら、オヤジさんが言った。

 「確かに、まだ、2人ともメンバー入りのチャンスはありますけどね。テラさん。日本代表って言えば、その二人しか名前しらないんでしょ?」

 「馬鹿言えって、ラモスも知ってるぞ」と思ったが、口には出さなかった。

 さてと、やっぱり私の興味は競馬である。ワールドカップの開幕前に、オークス、ダービーと大仕事が待っている。まず、5月の最初はNHKマイルだ。

 まだ、新しいレースコンセプトに慣れてないけど、去年のクロフネを思い出すと、このレースの結果は非常に気になる。皐月賞3着のタニノギムレットが人気となり、対するマル外の大将格はNZトロフィー勝ちのタイキリオンの構図。やっぱ、ここはマル父は小粒だなぁ。メイジロマイヤーは無理っぽいしね。抽選だが、出てくればタマモクロス産駒のカノヤバトルクロスを応援したいが…本格化はこれからかな… 迷うのはいつものこと。

 府中で3歳のマイル王者を決めるならば、末脚勝負。タニノギムレットは2着は外さないとして、マル外タイキリオンか、テレグノシスが突っ込むか?。武豊と柴田善臣となるか、ブライアンズタイムとトニービンてことになるか。どちらにしても内国産馬が初優勝をあげるチャンスとみた。

 「勝ちT」は当たらなくてもいいが、ダービーまでキチっと決めて、ゆっくりサッカー見物をしたいものだ。

 

bW5 天皇賞(2002.4.28) マンハッタンカフェ⇒ジャンポケ⇒トップロード、3連単だ。

 

 生きるってことは、何ものかと関わり合うということだ。だから、人生においては、「出会い」とか、「廻り合わせ」とかいうような、自分ではどうしようもないことが、かなり大きなファクターとなる。もちろん、人との出会いに限ったことではなく、仕事でも趣味でも何でもそうで、TPOに応じた全ての事象との邂逅が未来を決めていく。しかし、それをどう捉えて、どう行動するかは自分次第であり、上を向いて口を空けてるときに、丁度、棚からボタ餅が落ちてくるような僥倖は期待しないがいい。それに、そんな幸運に廻りあったとしても、そのボタ餅をノドに詰まらせてしまうかもしれないし・・・

 こんな意味の話をグダグダと「又八郎」のカウンターでしていると、甘木君が呆れたといった顔で言った。

 「まったく、先輩の話は回りくどいんだから。結局、何が言いたいんです?」

 私がグッと言葉に詰まっていると、蕎麦屋の久が助け舟のつもりか口を挟んだ。

 「テラさんは『住所馬券や誕生日馬券なんかの出目で万馬券取ったってしょうがない』って言いたいんでしょう? 根拠のない大穴よりも、根拠ある中穴ってことでしょ。 あっ、ゴメンなさい。テラさん、最近は『根拠のないハズレ馬券』ばっかし、でしたっけ?」

 またまた、「ウグっ」。私は飲みかけていたヱビスビールをノドに引っ掛けて咽せ込んでしまった。甘木君の感化を受けてか、蕎麦屋の久は近頃、ちょっと意地悪になったようだ。

 「でもさぁ、出会ってしまったクサレ縁。好きだけど縁がない。認めたいが相性がどうも…って馬や騎手もいるよなぁ。例の“買うときゃ来ないが、買わなきゃ来る”ってやつとかさ」

 音さんが言ったら、皆が、同時に「うん、うん」と頷いた。

 「別にとりわけ好きでも、こだわりもないんだけど、やけに相性がいい馬もいるよなあ」

 私が買うと来てくれたフレッシュボイスを思い出しながら言うと、またもや皆が、「うん、うん」。

 そしたら間髪を入れず、甘木君が私の顔をしげしげと見ながら言う。

 「べーつに好きでも、尊敬もしてないけど、相性も悪いんだけど、何故だか、何時も一緒に酒を呑んで連るんじゃう、って関係もあるんですよね」

 思わず、「うん、うん」と相づちを打ちそうになった私は、

 「うん?」

  蕎麦屋の久が笑って「そりゃ、前世のなんとやら…」

 果たして、私と甘木君は前世でどんな関係だったのか? 夫婦ってこたぁないだろうが、この「憎み切れないロクでなし」は、出来損ないの息子であったかもしれないナ。

 それから、「又八郎」は、とりとめのない天皇賞の買い目のご披露会と相成った。

 「G1馬が3強ならば、春天はそれで決まり。でも、ジャンポケは武豊で人気になればお客様。とすれば、ナリタトップロードとマンハッタンカフェでOKです」

 これは、理論派の渡会君。

 「なあに、皇太子にオメデタがあって初めての天皇賞だろ? “としのみやあいこさま”なら、トシザブイさ。いや、ボーンキングってのもあるな。とりあえず、マン馬券よ」

 植木屋のハタさんは自信満々。

 「直線、先頭に立ったナリタトップロードを差すのが安勝サンライズペガサス」

 甘木君は、武豊と小島太厩舎がキライである。

 「やっぱ、ジャンポケ。一番強いってのを見せて欲しいっす」

 壁紙屋の博也君は、初恋のジャンポケに頑張って欲しいのは当然だ。

 音さんが黙っているのは、決めかねているらしい。週末の新聞情報で決めるコトになるんだろう。

 さて、私の番。オペラオー、メイショウドトウと、眼の上のタンコブがとれたナリタトップロードでいきたいが、どうもこの馬は三着が似合う。ジャンポケは府中2400がベストで淀なら二着が妥当か。となると、勝つのは長距離GTの申し子マンハッタンカフェ。

 全くもって面白味のない予想だが『確かなる本命馬券』、こういうレースは3連単だ。夏競馬で始まる3連復じゃ消化不良だ。

 

bW4 フローラS (2002.4.21) ハナグルマにのって信じてみるのも乙なもんじゃないか???

 

 国内外の政治経済の混迷、開幕から阪神が首位を独走するプロ野球なんかには今更驚いたりはしないけれど、先週のレース結果には驚愕というよりグッタリとした疲労感を感じた。

 土曜のマイラーズカップで、贔屓のコンタクトが悲劇の最期をとげ、皐月賞は一顧だにしなかった抽選出走のノーリーズンがあんな強い勝ち方をした上に、◎ローマンエンパイアは2ケタ着順に惨敗した。仕事で気の滅入ることが続いていたのもあるけれど、週明けも肩から背中にかけて丁度重い鉛のようなものがベッタリと貼り付いたまんまである。自分の想像力や理解の範囲を超えた「何で?」は、プラス方向の事実(例えば宝くじにあたるとか)ならば「思いがけない幸運」として理由を考えるコト無しにすぐに受け入れられる。しかし、マイナス方向に信じられない現実に直面すると、単に「たまたま出会した不幸」として気持ちの整理をつけるのは難しい。そんな気持ちで呑む酒は、ちっとも美味しくない。

 そんな不味い酒を久々にあおっている。なんだか口を開くのもおっくうだったから、一見で入った新宿西口の居酒屋のカウンターで。注文取りのアルバイトのお姉ちゃんに頼んだ麦酒の大瓶と焼き鳥盛り合わせと煮込み、それにお新香が来たら何をすることもない。手酌の麦酒を舐めながらしばらくボーっとしていた。

 すると、いきなり携帯が鳴った。学生や若いサラリーマンで賑わう広いフロアのチェーン店である。携帯電話をとがめる雰囲気ではないから構わず通話ボタンを押した。

 「どこで呑んでるの?今日は顔出さないの?」

 聞こえてきたのは音さんの声。

 「いやぁ、惜しかったよ皐月賞。ノーリーズンとタニノギムレット持ってたのよ。タイガーカフェとタニノギムレットもね。そしたら、ハナでタテ目。ゲン直しにソバで飲ってるんだけどさ」

 案の定「又八郎」からだ。後ろの方で甘木君が「先輩が来るとうるさいから呼ばない方がいいですよ」なんて、聞こえよがしにワメいている。

 急にこんなところで独り不味い酒を呑んでる自分がバカバカしくなった。

 「音さん。バカだね。でも何を根拠にノーリーズン買ったんです?」

 その答を聞いて辺りをはばからず大声で笑ってしまった。音さんは、土曜の東スポの見出しで買い目を決めたらしい。

 「早くおいでよ。今週こそ天皇賞の資金稼ぎにバチっと当てなきゃ。皆待ってるよ…」

 私は矢も楯もたまらず、まだビンに半分は残っていた麦酒を一気に呑んでから、大江戸線の都庁前駅に急いだ。中井まで、地下鉄に乗ってしまえば10分かそこらである。駅の入り口に入ろうとした時、また着メロにしているマイフェイバリットシングスが鳴った。

 電話は、年とってからの結婚を逡巡していた旧友のマコっちゃんからだった。

 「考えてたってしょうがない。やっぱり、一緒になります。苦労してみます。テラさん。絶対来て下さい…」

 明日は何が起こるのかわからないけれど、みーんな何かを信じて生きている。オークストライアルのフローラステークスでは、サンデーサイレンスの岡部ブリガドーンとブライアンズタイムの後藤マイネミモーゼ、それにジェイドロバリーの小野レアパールを信じてみる。ミモザ賞の1・2・3の三角買いだ。

 ところで三歳牝馬の特別レース名は花の名前で廻っている。ミモザって花はアカシアのことらしい。「アカシアの雨に打たれてぇ、このままぁ…」という唄が昔、流行ったっけか。だけど、ミモザの花の花言葉は、「友情」とか「真実の愛」とかなのだそうだ。ハナグルマにのって信じてみるのも乙なもんじゃないか???

 

bW3 皐月賞 (2002.4.14) “銀行馬券”って言葉、もはや死語だね。

 

「“銀行馬券”って言葉、もはや死語だね」

 火曜の夜、いつもの「すし哲」で、税理士の森さんが言った。店の突き当たりの天井から吊ってあるテレビに映っているのは10チャンネル。みずほ銀行のコンピュータがパンクしたってニュースを、渡辺真理が相変わらずの無表情で読んでいる。

 「森さんが今頃そんなこと言ってんの? とっくの昔、バブルのすぐ後にゃあ業界の使用禁止用語になってるよ。ま、利子がほとんど付かないってことなら、昔より意味深だけどね」

 「週刊ホースシュート」の修さんが、アクビを噛み殺しながら気のない返事をした。

 それが聞こえたか、聞こえなかったか、森さんは眼はテレビの方を向いたまんまで、拳を振り上げている。中小企業のオヤジ相手に、帳面付けてあげる商売(いまパソコンかな?)だけに、どうにもこうにも許せないらしい。

 「しかしお粗末な話じゃないか。みずほ銀行っ!ホールディングスの社長が今頃、ノコノコ国会に出てきて、やっと『ごめんなさい』。しかも、『クレームが殺到しただけで、実害はない』なんて・・・呆れてモノも言えない。客からクレームがきたら迅速かつ的確にレスポンスするのがビジネスの基本中の基本じゃないか」

 憤懣やるかたない様子の森さんをなだめようと私は声を掛けた。

 「大ドコロの銀行が3つも一緒になろうってんだから、当然、客にすれば安心感があったよなぁ。でも、3行それぞれ面子もあるし、客に眼を向けた準備する前に主導権争いの方が先立ったんだろうな。馬券もさぁ、固いって思われていたのが来ない時ってやっぱり原因があるね。桜花賞のシャイニンルビー。岡部人気もあって一番人気だったが、さすがに22キロ減じゃ3着は大健闘でしょう」

 だけど森さんは、「ホントの銀行はちゃんと処理するのが当然。でも、銀行馬券は外れてもそれなりの覚悟出来てるからねぇ。ちゃんと来たら嬉しさよりホッとするよぉ」とぽつり。まーだ、みずほ銀行を許せないようだ。

 それを聞いて修さん。私に話を振ってくる。

 「テラ。お前の予想は誰も銀行馬券だの、鉄板だのって思っちゃいねえんだから心配すんな。皆がみんなお前の二重マル外して買ってるんだ。きっちり当たったら逆に謝らなきゃなんねえぞ」

 甘木君がすぐに尻馬に乗って突っ込む言葉がまた憎らしい。

 「そうそう。『テラさん馬券は不良債権』ってのは中井じゅうのウワサ、いや定説ですからねぇ。先輩。皐月賞は何買うんです。今回も頼みますよ。きっちり外してくださいよ」

 甘木君と修さんが一緒に居ると、何時もこの調子である。最近の戦績では全面否定できないだけに口惜しい。私を酒の肴にするなら、せめて、私が居ない時にしてくれないかなぁ。

 さあて、皐月賞。桜花賞の予想は完璧な不良債権だったが、気を取り直してきっちりとね・・・むろん当てる方でキッチリとだ。皐月賞がどうなるかは、年末から年明けにかけて随分と楽しみにしてきた。密かにご贔屓にして、今年のクラシックはコレって思ってた馬もいたし・・・だが、いよいよ出揃ったメンバーを見ると、やっぱり迷うなぁ。この次期はまだ、ひとつの同じ定規では測れないしなあ。あれこれ考えたが、軸は安定感を評価してサクラローレルのローマンエンパイア。展開が上がり勝負になれば連は外さないだろう(ちょっと屋根が心配だが)。ここから、一度叩いての復活期待で2歳チャンプ・アドマイヤドン、乗り替わり不安も底を知りたいモノポライザー、安勝で主役級に返り咲きあるかもサスガ・・・の3頭へ。単穴を言えばサクラバクシンオー産駆のメジロマイヤーの逃げ。シゲルゴッドハンドやバランスオブゲームとのハナの奪い合いがどうなるかも楽しみ。

 この予想を聞いて修さんが、またキツイ一発。

 「その根拠じゃ、おめえのは“みずほ銀行”馬券だぁな」

 そのココロは『買う前は当たるような気がする“宝くじ”とまるで同じ』だってさ。そう言えば、宝くじは第一勧銀、今、みずほ銀行が胴元だっけか。だけど、宝くじだって当たる人は当たるのだ。

 

bW2 桜花賞 (2002.4.7) 「咲いた桜に なぜ駒つなぐ 駒が勇めば花が散る」

 

 競馬ファンって、つくづく因果なモンである。

 夕方の銀座線の渋谷行き。東スポの競馬面を見ながらつり革につかまっていたら、ふと「いい時計だね」という声が耳に入った。反射的に、(いい時計ってどの馬だ?)と思って馬柱を見直してしまったのだが、すぐに「ほう。ロレックスかい」とさっきの声の主が言う。私の勘違いに誰が気付いているわけでもないのだけれど、ちょっと恥ずかしい。そして、赤坂見附を過ぎて車内が空いてきたらドアの方に居た初老のサラリーマン2人連れの話が聞こえてくる。

 「屋根がどうもね。替えなくっちゃいかんよ・・・」

 これを聞いて当然の条件反射、馬柱の乗り替わりを目で追っちゃう私。

 すると「家なんて、建てて20年も過ぎればいろいろと出てくるもんさ」、との声が聞こえてきて、またまた赤面するハメに陥った。

 恥ずかしながら、お馴染み中井の「又八郎」で皆々様に懺悔したら、音さんが「何を聞いても競馬の話に聞こえるのは、まさに病膏肓に入るってとこだね。むしろ勲章じゃないの?」と慰めてくれた。

 だが、案の定、甘木君が異議を唱える。

 「勲章なもんですか。ただのオッチョコチョイなオヤジですよ。んじゃ、すし屋で『上がり』って声がすればビクッとしたり、新聞に『出馬へ』なんて選挙記事の見出し載ってたら毎度毎度ドキリとしたりするんですか。難儀ですねぇ」

 そんなこと言う甘木君だが、ご当人は昨日の昼間「セブンイレブンでこんなの見つけましたぁ」と嬉しそうに、玩具入りのお菓子を10箱も抱えて事務所に帰ってきて自慢してたのを忘れたらしい。明治製菓の「名馬伝説」っていうそのお菓子にはオグリキャップやトウカイテイオーなんかのミニチュアにキャンディが入っていて350円もするそうだ。全部で三千五百円。それに消費税かぁ。30過ぎた子持ちの男が、1箱づつ明けてはオモチャの馬を机の上に並べてる姿に冷ややかな視線も注がれていたのだけれどね。

 そのことを持ち出すと、「先輩、ホントは羨ましかったクセに」と言う。私は「バッカじゃなかろか。私はオモチャの馬を集めるより三千五百円分の馬券を買ったほうがいい」と切り返した。

 それでもメゲない甘木君。

 「お菓子はね。桜風味のキャンディなんですよ。美味しいっすよ。きっとこれで桜花賞はバッチリです」と、音さんや蕎麦屋の久に配っている。1箱に5コくらいしかキャンディは入っていなかったが、10箱も買えばまぁ皆に配るくらいは十分あるのだろう。それにしても「名馬伝説」で、“サクラ味”ってのは悪趣味な気もするが、“けっとばし”は決して口にしない蕎麦屋の久だが、アメなら許せるのか口をモゴモゴさせている。

 そんな私も甘木君も、他人から見ればどっちもどっち、五十歩百歩、眼クソ耳クソの競馬バカなのだろうけど。

 さて、もう4月、桜花賞の週となった。不動の本命馬不在で絞り難い。今年は桜の開花がヤケに早かったが、その伝でいけばスピード決着になるか。前行った組がパーっと咲くような展開になるのかな。すると逃げて勝ってる藤田のサクセスビューティ、早め抜け出した吉田のスマイルトゥモロー、デムーロのヘルスウォール。あぁ、チューリップ賞はオースミコスモも先々行って粘った。うーん、迷うところだが、私は柴田善臣に乗り替わりのサンターナズソングを中心視する。アネモネSでの時計、勝ちっぷりも気に入ったが、なにしろマル父サクラバクシンオーだからなぁ。サンデーサイレンス―フジキセキ産駒よりもヒイキ眼になる。

 甘木君が「桜花賞ならタムロチェリーでしょ?」と言うけれど、チェリーが屯(たむろ)してんじゃ話になんない。あまりに早咲きのサクラはもう散ってしまっているから、相手はオースミコスモと岡部シャイニンルビー、スマイルトゥモローまで。

 こう言って私は「オレにもひとつ寄越せ」と、甘木君から「名馬伝説キャンディ」をひとつ取り上げて口に入れる。・・・桜餅のような風味でなかなか美味かった(馬勝った)。この歳で照れくさいが、ゲンを担ぎに帰り道、セブンイレブンに寄って1箱買ってみようかな。

 

bW1 産経大阪杯 (2002.3.31) サンライズペガサスで堅いでしょうね。安勝は阪神の芝二千は鬼です。

 

  「オヤジさん。オレはカンパチとツブ。ツマミで切って下さい。アーとっと、こいつににはカッパ、奈良漬、梅シソ巻いて、それに…えーと、イクラどうだ?…うん、ダメ?…じゃ、タマゴと子持ちゴブ握って」

 なにね。何かにつけて博覧強記、お馬に関してもオタクが入っている好青年の渡井君を、何時もの中井は「すし哲」に誘ったのだ。実は、無敵の彼にも苦手なものがひとつある。どういうわけか函館産まれのクセにナマものが一切ダメだという。「えーっ。スシですかぁ」っって渋る彼を、私が無理矢理「すし哲」に引っ張り込んだのはイジメるためではなく、ここの巻きモノが美味いからである。手打蕎麦「又八郎」は醤油が美味いが、「すし哲」は巻きモノがいい。むろん、活ネタが美味いのは、「又八郎」の蕎麦が美味いのと同じだ。

 案の定、渡会君はゴマの入ったカッパ巻きや、朝から手間暇かけて親方が焼き上げたギョクを「ホント美味しいですね」とパクついている。それを見ると私も満足して酒が呑める。若い人が旨そうにモノを食っているのはいいものだ。

 渡会君は人心地ついたか、コップのキリンラガーを舐めながら(酒は勉強中らしい)、私に気遣ったか競馬の話を持ち出した。

 「先週の宮記念は凡レースでした…それにしてもトロットスターの蛯名!土曜の日経賞マンハッタンカフェもそうですが乗れてませんね」

 「うん。取れなかったから言うワケじゃないが、スティンガーの追い込みだけが救いだったね。最後だったから岡部が乗ってもよかったんじゃないかね?」

 「やっぱり競馬は屋根も大事ですよね。それに馬も騎手も得意、不得意がありますし…」

 その後、春のG1戦線の話になったのだが、渡会君の説では、例えば天皇賞のジャングルポケットはないらしい。「アレは府中のニイヨンの専用馬。それにピったりの屋根がいない」と、言う。確かに、きっちり勝ったのはダービーとJC。右廻りの京都3200でダメっていう理論は納得できるかな。

 「じゃあさ。今週はどうなの?血統や過去のデータの話は別としてさ…」

 その辺に疎い…っていうか非科学的(右脳的)競馬主義者の私は言った。

 「大阪杯は、サンライズペガサスで堅いでしょうね。安勝は阪神の芝二千は鬼です。この条件、重賞で記憶にあるのは一昨年のローズステークスくらいですかね、安勝がダメだったのはぁ」

 私は「そうだったかな」と言いながらも、(別定で59`ならエアシャカールは切って、勢いのいいサンライズペガサスからマル父ツルマルボーイと社台ロサードの橋口厩舎2頭に行こう)と考えていたから、ホクソ笑む。

 「じゃ、中山は?」

 「この中山乗れてる藤田グラスワールドが軽ハンデで怖くないですか?

 「ふーん。じゃ蛯名コンタクトは?」

 「コンタクトはいりません。蛯名はちょっとここんとこ変です…」

 それを聞いて私は、(渡会君。結果は理論付けできる。過去に意味はないとは言わないが、オレは時計、格、距離実績、コース適正、鞍上、調教、etc…、どれもこれもバッチリの馬が敗けたレースを見てきた。その逆も見てきた。経験則は前提が確実であればこそ効を奏する。競馬は不確実な前提を信じることじゃないか)と、言いたかったが、口をつぐんだ。何故なら、渡会君もそれを理解している筈だからだ。

 タイミングよく親方が「ナマものがダメなら、こんなんどうでしょう?」と、自慢のアナゴを出した。渡会君は、私の顔を見ておそるおそる口にした。

 「美味いっ!」

 私は、「そりゃ、そうだろ。このさぁ、ホロっとしながらスモーキーな薫りのアナゴはここしか喰えないぜ。ホントはここはコハダも美味いんだけどね」と、笑った。そして、言った。

 「鮨屋はどうだい?」

 渡会君、ちょっと囓った後のアナゴを一口で食べて、グッとビールを呑んでから答えた。

 「今度、彼女と来ていいですか?」

 同じ条件のレースが毎度毎度、同じ様に決まるワケではない。大阪杯でサンランズペガサス。ダービー卿でコンタクトが来たら、競馬が私にとってまた新しい美味さを味あわせてくれるのだろうと思う。

 

bW0 高松宮記念 (2002.3.24) 上がり馬の4歳馬ショウナンカンプなんかも含めて、人気は割れる筈。

 

「ちょっと帰ってきませんか。いま、いいっすよ。もう初夏です。花が咲き乱れているし、泳いでもいいくらいです・・・そうだ、釣りたての魚で一杯やりましょうよ」

 火曜の朝6時半。ぐっすり寝込んでいるところへ、旧友のマコっちゃんから電話がかかってきた。歳は五つ六つ下だったが同じ鹿児島出身ということで、奴が東京で印刷屋の外勤をして頃は毎晩のように新橋辺りで飲んだくれていた。何を思ったか2年半前、オヤジさんはまだ元気だったのに故郷の指宿に帰って家業の漁師を継いだ変わり者である。まぁ。漁師も板についたろうから、奴にとってみれば6時半は早い時間でもないのだろうが、まだ寝呆け頭の私には藪から棒に「帰って来い!」などと言われても話が全然見えてこない。

 よくよく聞いて見ると、なんでも遅まきながら結婚することになったんだが、ついては私に彼女に会ってもらいたい―ということらしい。結婚式に出てくれってわけではなく、その前に会って欲しいのだと言うのだ。

 「結婚式でもなく、オレが嫁さんに会ってどうすんだよ」

 「いやね。結婚前に俺ってのがどういう人間なのか。教えてやって欲しいんですよ。こう、なんて言うのか、根回しっていうんですかぁ」

 ますます分からない。結婚なんて男女が理解しあってするものだと思っていたが。少なくとも、そういうふうに思い込んでするものだ。仲人じゃあるまいし、結婚決まってから私が何を根回しする必要があるのだろう。

 「うーん。自分で言うのも変なんですけど、惚れて惚れられて・・・とは思ってるんですよ。でも、この歳まで独り者やってたら、なんかこう結婚生活ちゅうもんに自信が無いんすよ。俺、脳天気なクセに意固地だし、酒も浴びるしさ。愛想尽かされたらと思うと心配でねぇ。そんで、自分のことよく知ってて、人を丸め込むのが上手いテラさんに、彼女に因果含めてもらおうかと・・・」

 「よく自分を分かってるじゃないか。それにしても、『因果含める』ってのは穏やかじゃないな。他人に人買いの片棒担がせるつもりかい。ははん、結局のところ彼女を自慢したいわけか。」

 「そんな自慢するようなもんじゃありませんよ。とれとれキトキトの魚食わせますから、なんとか都合つけてくださいよぉ」

 分かったような分からないような話だ。いずれにせよ気が重い役目のようだが、キトキトには惹かれるものがある。マコっちゃんの漁師振りにも興味があるし、「一応考えておく」と言って、電話を切った。

 今年は桜の咲くのが早かったせいか、世の中も浮かれまくっているらしい。その日の晩、「又八郎」のシャッターが降りてたんで久々に「すし哲」に顔を出したら、蕎麦屋の久が店放ったらかしてOL風の女性と寿司を摘んでいる。歳の頃はそう30半ば過ぎかな。久とちょうどいい釣り合いではあるが、雰囲気はどうもぎこちない。久は私が店に入ってきたのに気付いたようだったが、知らんふりしてカウンターの隅っこに腰掛け、ビールを注文した。しばらく間が合って、久は意を決したか、「テラさん」と声をかけてきた。白々しく「オヤっ」とだけ言って頭を下げた。そして、すし哲の親方に花見の話題を振った。その様子を見て、久は開きかけた口をつぐんで、恨めしそうな視線で私をみている。

 決して意地悪をしたわけじゃない。中年のドロドロの不倫にはもちろん口を挟みたくはないが、マコっちゃんにしろ、久にしろ、初心な中年の真面目な恋愛ってのもなんだかなぁ。「ここ一番」って機会を何回も逃してきているだけに、妙に慎重になるんだろうけど、こんな私が何を言ってやれるってものでもない。

 そう言えば、今週はG1高松宮記念。スプリンターにとってはここ一番である。トロットスターが欲しいままにしてきた短距離王の座も前走の惨敗で怪しくなり、混戦模様。それだけに、上がり馬の4歳馬ショウナンカンプなんかも含めて、人気は割れる筈。ハナっからスピードは上がるのは必至だが、フルゲートの中京では後ろからいく馬は位置取りで有利不利が大きそうだ。どうしようか考えたが、大器晩成の6歳サイキョウサンデーはどうだろうか。四位から江田照への乗り替わりは人気にどう影響するかだが、相手を絞り込めばソコソコ着くだろう。やはり、中年6歳勢で行く。つまり、勢い出てきたアドマイヤコジーンが本線。あと、ケチつけたトロットスターもこのままでは終れないと思う。引退レースの女傑スティンガーにもご祝儀で少しだけ。

 話が競馬に行ったのを聞いて、蕎麦屋の久が「サイキョウサンデーいい狙いですよね」と、口を挟んできた。私はニヤリと「そうだね。なんたってサンデーサイレンスにノーザンテーストのサワヤカプリンセスだからね。久さんは、それにテンシノキセキでも買うのかな?」と言ってあげた。

 今週、鹿児島往復の飛行機代が稼げたら、やっぱりマコっちゃんの彼女にも会いに行ってみようかな。つくづく、私はお節介な性質だ。

 

bV9 スプリングS (2002.3.17) 軸は無理せずともタニノギムレット。・・・・あとはトニービンのテレグノシスまで。

 

 西武中井の駅の時計は、もう午後7時をまわっている。夕陽がビルの陰に消えてから、けっこう時間が経つというのに、妙正寺川沿いを吹く風は温かい。コートは置いてきたが、夜風が心配でベストを着込んできたからジャケットは肩に引っ掛けて歩く。(ほんとに今年は桜が早そうだな)などと思いつつ、何時もの又八郎の暖簾をくぐった。

 すると、「いらっしゃい」と振り向いたアキちゃんが、何か気付いたふうで「あれっ」と声を出す。

 私は「なんだい?ほっぺたに昼飯のオベントウでもくっついてるか?」と、右手で頬をなでながら答えたのだが、アキちゃんはクビを振る。

 「テラさん。そのシャツ、ボタンダウンでしょ? 襟のボタンがハマってないわよ」

 運悪く、店には甘木君が先乗りしていた。こいつが、こうした他人の失敗をからかわないわけがない。

 「こんな早い時間からシャツのボタン外して、なーにしてきたんですか。ネクタイまで外すとなると・・・こりゃ普通じゃない。上野ですか、池袋ですか?」

 単に、今日は久し振りにネクタイ締めたから、そのときボタンを留め忘れただけなんだが、そんなコト言っても甘木君は疑って許してくれない。

 「ウソなんかつくもんか。大体なぁ、6時過ぎまでオレは事務所に居たんだから、何するったって時間もないよ。電車に乗ってただけだ。お前は他人を自分と同じレベルで見るから信じられないんだよ。そんな下世話な詮索するのをな、語るに落ちるっていうんだ!」

 久し振りに甘木君を怒鳴ったら、「ムキになるところがますます怪しい・・・」などと言う。まったく、煮ても焼いても喰えない奴だ。どうやらアキちゃんと蕎麦屋の久は納得してくれたらしいから、まぁいいが・・・。

 証人喚問で冤罪がどうにか晴れたからカウンターに腰掛けたけど、こんな時は何の話を切り出しても照れ隠しみたいである。黙っている私を見て、出先の仕事帰りに蕎麦で一杯やってた税理士の森さんが話掛けてくれた。

 「ボタンの留め忘れなら嵌めればそれで済むけれど、ボタンの掛け違えってのは、1コ間違えばどんどん収拾がつかなくなりますね」

 「何のナゾかけです?」

 「鈴木宗男ですけどね。いつもと同じ調子でODAの出席問題で外務省に口を出したんでしょうが、ボタンを嵌める時期も場所も完全に間違いましたね。しかも、すぐに間違ったボタンを外しておけば良かったのに、『これがオレ流だ』なんて意地張ってどんどん違う穴にボタンを嵌めていったから、ますます格好がつかなくなる。また、意地張った相手も悪いし、衆人が注目している中だから、ネクタイの結び方がおかしいだの、上着のガラが悪いだの、挙句の果てはズボンのチャックまで調べられることになる」

 そういう見方もある。かねてから身ぎれいにしてたワケじゃないから、一度ケチがつけられると、あれもこれもつつかれることになる。吠える犬が水に落ちたり、イジメっ子がイジメられっ子になればとことん叩かれる。そんなコトになるのも、初めは何かのボタンの掛け違えがきっかけだ。

 「そうそう。先輩、今回はうっかりで納得してあげますけど、ウソついてるんだったら、いろいろとボロが出てきますよ。気をつけて下さいよ」

 なんと言うか甘木君の減らず口。このテクニックは社民党の辻元女史も顔負けだな。まぁ、共産党の佐々木氏のような冷静さと論理性は皆無だ。

 そこで競馬の話だが、東西の皐月賞トライアル。西の若葉Sはアドマイヤドンの走りを注目するとして、スプリングステークスのボタンはどのように嵌めるのが正解だろう?やはり、トライアルと本番は違うってことを認識すべきか。重勝2連勝のタニノギムレットを頭に嵌めるのがスッキリするものの、今回のTPOを考えるとこのボタンは外しておくのが正解かも・・・。可能性と配当を天秤にかけてみれば、狙いはローエングリン。東の秘密兵器になり得るかなぁ。前回500万は武豊だったが、横山典ならば四位に乗り替わるタニノギムレットよりは買える。ただ、軸は、速い流れとなると見ればやはり無理せずともタニノギムレット。石崎タイムレスワールドも切れ味が生きるか。行った行ったでドイルのセピアメモリー、あとはトニービンのテレグノシスまで。

 春の天皇賞へ向けた古馬長距離戦線を占う阪神大賞典は、ジリジリとトシザブイが2着に来ると見る。2番目のボタンホールに嵌めるのは、「一番上はジャングルポケット」と壁紙屋の博也君がガンとして譲らないコトもあるが、そのほうがスッキリと落ち着くからでもある。

 本命党の蕎麦屋の久は、「いいんですか、ローエングリンで?本番の狙いが収拾つかなくなる」と言う。でも、外務省とムネオちゃんの関係と違って、私とJRAの間には癒着も利権も一切ない。間違いを指摘されたら、すぐに、違うボタンに嵌め直すか、はたまた「これが自分のスタイルだよ」って突っ張るさ。

 

bV8 フィリーズレビュー (2002.3.10) 今週の勝負は中山牝馬S、ダイヤモンドビコーからティコティコタックへ1点。

 

  学校からの帰り道、大工さんが柱にシューっと鉋をかけているのを、仕立て屋がタタタタタって背広にミシンをかけるのを、ある時は畳屋が路地裏に畳持ち出して太くて長い針でグイグイと縫っていくのを、飽くことなくじーっと眺めているのは楽しかった。ピシっと決まった型や手順で作業が進む。とても自分ではできそうもない。まさに、熟練の技だった。とても自分にはあんな機械みたいに正確に手を動かすことは出来ないと、いつも感心して見ていた。

  だけど、機械的な規則正しい作業をファジーな人間がやっているのを感心していたのは、悪い意味でファジーな自分に置き換えて考えていたからだ。材木も布地も畳も、いつも条件や状態は違っているわけで、職人は仕上げるイメージに応じて手を動かしていた筈だ。人間が微妙な修正をしながら作業を進めるからこその正確さで一分の狂いもなくかたちになっていく。熟練とはそういうものなのだと今では思う。ま、ゲーム小僧が驚くべきスピードでピコピコ手を動かしているのも熟練と言ってもいいのだろうけど、しょせんプログラムされた変化への対応だもんな。

 そしたら蕎麦屋の久が肯いた。

 「20年,30年やっても程遠いですね。熟練の技ってのは」

 「そうかな。久さんの蕎麦は美味いよ。甘木なんかに喰わせるのはもったいないくらいだ。捏ね鉢に向ったり、蕎麦切ってる姿なんざ惚れ惚れするぜ。もはや匠の技だ」

 私が言うと、久は笑い出した。

 「私の蕎麦はそんな上等なもんじゃありませんが・・・。それよりテラさん。ハナシが違いますよ。私が言ったのは競馬の話です。だいいち蕎麦は始めてから10年もたってません」

 「そか。オンナ知るよりケイバの方が早かったっけかな。久さんは」

 すると、週刊ホースシュートの修さんが茶々入れる。

 「オレも地道にコツコツやってきたけどもさ。熟練の域に達するのは容易に達し難いね。なんせ、ウマもオンナも生きモンだし、見た目じゃ分からん。・・・それによぉ、どっちも言葉がまるっきし通じやしないんだからなぁ、いつも騙される」

 居合わせた一同が、「うん、うん」と深ぁーく肯いた。

 「騙したウマが悪いのか、それとも騎手が悪いのか」と、甘木君。

 「騙した記者も悪いのよ」と、音さん。

 「信じた私がバカでした」と、蕎麦屋の久。

  私は、馬券が取れないとお嘆きの諸君にトドメを刺してやる。

  「オケラ街道を歩きながらこう考えた。情にサオ差しゃ流される。血にはたらきゃあ分からない・・・」

  そしたら、皆が一斉に声をそろえた。

 「兎角に競馬は難しい・・・」

  こんなこと毎週毎週言ってるんだから、熟練の域なんかに達するわけないな。

  さて、フィリーズレビュー。今年は桜が早いらしいが、蕎麦粉の湿り具合や焼酎の割り加減なんかと比べて、若い娘のご機嫌を推し測るのは格段に難しい。有力どころは揃ってフジキセキだし、阪神JF組を中心視するのもなんだかなぁ。トライアルなんだから、懲りずに情に流されてみるか。そう、金沢のトゥインチアズ。鞍上は若干18歳のNARの優秀新人騎手の吉原だ。まだ、キスの仕方も知らない(?)若い二人が、手に手をとって愛の逃避行するわけだから、応援せねばなるまい。サクセスビューティと藤田君、邪魔するなよ・・・多分、後から追っかけてくるのは、酸いも辛いも噛みわけた河内のオッサンとカネトシディザイア、小倉で良い仲になった小娘タムロチェリーに振られた小池とエイシンスペインも好位から伸びてくれば面白いけど・・・。うん、吉原・トゥインチアズ組から、この2組へ行こう。桜花賞ももうすぐ。今年はどんな花が咲くのかな。あと、今週の勝負は土曜の中山牝馬S。今週で帰国するペリエのダイヤモンドビコーからティコティコタックへの1点勝負。

 甘木君は「やっぱりね。ホント先輩は分かりやすい。また、情にほだされてダマされますか。ここは熟練の女衒、河内と若き色事師四位でしょ。カネトシディザイア−ブルーリッジリバーが本筋。先輩さぁ、そんな狙いじゃ、憧れの名人の域にはまだまだ遠いっすよ」、だと。

 キタサンヒボタンを切るのでは一致したから、「どうして?」と理由を訊くと、

 「桜花賞行くのにヒボタンはないでしょ」と言う。

 だけどさ、毎年毎年サクラの馬が桜花賞勝ってるわけじゃないぜ。

 

bV7 弥生賞 (2002.3.3) 狙うならバランスオブゲームでしょ。相手も(父)のローマン・・・・。

 

 「すまんな。悪かったよ。ま、・・・絶望とか、敗北感なんてもんをさ、わざわざ金払って買う奴もいるってことだよ・・・」

 甘木君があんまり責めるもんだから、マゾ体質の私は自嘲気味に言った。

 私が責められてくるのは、他でもない中山記念の買い目のこと。先週の金曜日に甘木君と神田の立ち呑み屋「さつま」で一杯引っ掛けたとき、「トウカイポイントはどうですかね?」と訊ねられた。そのイヤらしい口調に私はオッズに目が眩んだ不純な動機を感じ取り、「いらないよ。まったくいらない。もし買うってんだったら、オレがノんでもいいぜ」と、斬って捨てたのである。

 むろん、甘木君は「そうですかぁ」と乗ってはこなかった。それは彼の勝手である。だけど、私はトウカイポイントについては馬柱を見たときから眼中になく、ロクに検討してなかったから、自戒を込めて謝ったわけだ。

 こんなにも殊勝な私に対して甘木君は追い討ちをかける。

 「さすが人生順風満帆の先輩ですね。金で絶望を買うなんてさぁ。でもボクの馬券をノンでたら、それこそ桜島の噴火口に飛び込みたくなるくらいの絶望感が味わえたのに・・・もったいないことしましたね」

 うん、ようやく分かった甘木君は純正のサド体質なんだ。サド体質はしつこいもんな。いつまでもグチャグチャ言ってる。

 その点、私は躁鬱病ならぬサドマゾ病だ。また、ペシミストを気取りたいオプチュミストでもあって、叩かれ強く、落ち込んだ後の立ち直りも早いのである。

 「そだな。絶望の渕が深いほどから這い上がり甲斐があるってもんだな。せっかく桜島に飛び込んだからには、ここらで一発大噴火するかぁ。さ、弥生賞だ、弥生賞。今回は面白いぞぉ」

 すると、傍らでニヤニヤしながら話を聞いていた音さんが、「テラさんが20年以上競馬やってる割に予想がからっきしなのはその性格のせいだね。反省と経験を生かす素質がないもん。直感と勢いだけでウマやってんだから参るよ」

 確かにそうかもしれないが、新聞のダンゴと厩舎コメントで馬券買ってる音さんに言われたかないな。それでも音さんは、気合いと根性というリューズバーのマスターの流儀よりはマシだと思うから、一応敬意を表して反論はしないことにする。

 さて、弥生賞だが、週初めでの直感では武豊の不幸な戦線離脱と軽量ゆえの長距離輸送の影響を考えてモノポライザーを切るつもりだった。軸は、追い込んでとどかない場面も予想されるローマンエンパイアよりも、しぶとい脚を使える蛯名のヤマニンセラフィム。ヒモにもモノポライザーは外すつもりで、買い目の配当はグンと高くなる筈だったのだが、いきなりの熱発回避で拍子抜け。それにしてもフジキセキのように出走し勝ったものの引退、ってよりはマシかも。皐月賞には出てきて欲しい。

 んで、大本命が抜けて、私の◎も変えることにする。意外とローマンとヤマニンはそれほどの器ではないと思うことにして、本命は柴田善臣のモンテブライアン。押し切って勝つのだ。第一、今年の皐月賞をさらに盛り上げるためにもニュースターが誕生したほうが面白いもんな。これは勢いの予想である。そうなると相手本線は追い込んでペリエのヤマノブリザードってことになる。ローマン、ヤマニンにもちょっとだけ。浮いたならば、皐月賞にガツンといって大爆発させるつもり。

 それを聞いて甘木君が、「えーっ、狙うならバランスオブゲームでしょ。相手も(父)のローマンかヤマノブリザード、先輩、今度は阿蘇山に飛び込み自殺ですか?、なんならノミましょうか?」と、まーだネチネチと言う。そこまで言うなら、今度大爆発したら、甘木君をどこぞのSMクラブにご招待するか。だけど、甘木君。意外とあっちの方は女王様に虐められるのがスキかもしれないぞ。

 

bV6 中山記念 (2002.2.24) 情けないほどの下手糞予想をしてしまった・・・・。

 

 「『何故、結婚しないか?』なんて問い詰めるのは野暮ですよ。既婚者からみればなんで?と思うかもしれませんが・・・まぁ、言ってみれば、浮気してる人から見れば、一穴主義の男が浮気せずにいられるのを不思議に思うようなものですよ」

 誕生日の話題から蕎麦屋の久は三月生まれだってことが分かった。「じゃあ、幾つになる? ・・・そうか。シジュウゴか」てなふうに話が進み、トドメに週刊ホースシュートの修さんが、無神経な問いかけをしたのだ。それを、家庭円満世渡り上手の甘木君がたしなめたのである。それにしても例えが悪いけれど。

 話がまた変な方向に流れそうだから、私は引き戻すことにした。

 「浮気がどんなもんかよく知らないが、自分に出来ることと出来ないをアタマから決め込んでるってコトあるよな。それに、『したいけど出来ない』のと『出来るけどしない』って、どう違うんだろな?

 甘木君の答はこう。「同じです。どっちのケースもそれが犯罪じゃないんだったら、挑戦する勇気とそれを実現する能力に欠けるってことですよ。出来てないって事実は同じなんですから」

 修さんはというと、「違うぜ。オレなんか、禁煙でも禁欲でも、やる気になりゃ何時でも出来るぜ。ただ、しないだけだ。したくないんだからしないだけだ」などと、うそぶいて見せる。

 話の発端となった蕎麦屋の久は、当然ながら「おっしゃる通り」と修さんの意見に組する。

 その後に付け加えた「私も結婚したくないだけなんです」ってのは少々真実味に欠けるものの、久にいきなり結婚が決まったって言われてもちっともおかしくはない。蕎麦屋の久は身長175センチ、体重65キロ。容貌だって甘木君なんかよりはよっぽど若く見える。酒と競馬も矩を超えることはない。そこそこの経済力もあり、ああ見えても美大で日本画をやっていたというし。

 ただ、何にせよ、条件が整っているからといってうまく行くとは限らない。そこが宇宙の法則の面白いところだ。運命論ではないのだが、壁を超えるとかステップアップするとかいう時は、人智の及ばぬ何かが働いているものだ。ひとつの事象はホントに複雑なファクターが絡み合っての結果だがらさ。もうわかると思うけれど、競馬が毎週のように、そのことを如実に証明する。

 さて、中山記念は、この後は先週見事にG1四連勝を飾ったアグネスデジタル同様、暮れの香港で鮮やかなG1勝ち以来のエイシンプレストンが出てくる。別定重量の60キロ、この後は香港の国際G1遠征を予定している。さあ、どうするか。ここは十分に「勝てる」条件ではある。だが、勝てるけど無理に勝ちにいかなくてもいい条件でもあるのではないか。この斤量で、暖かいとはいえ二月の馬場で後ろからいっぱいの脚を使うかどうか、福永のムチは緩まないだろうか。格上のジョウテンブレーブも、マイルC以来の休み明けでは狙い辛い。

 もっとも両馬ともに無理せずとも勝てる展開も考えられる。だけれど、私はこのGU。勇気を持って挑戦し勝てる能力を持つ馬で勝負したい。それは、ミレニアムバイオ。3歳時に足踏みしたこの素質馬は一気に壁を破るのではないか。相手は、スパークホークとエイシンエーケン。この三頭はチャレンジャーであり、馬場も良いこの舞台で実力を存分に発揮し本格化してもらいたい。だから、タテ目も押さえて三角買いしてみよう。

 ところで蕎麦屋の久の嫁取りレースだが、まずはお友達といった条件レースから着実に実績をつけて、重勝を狙ってみることじゃなかろうか。何度かパドックをみたことがあるけど、入れ込みがキツいんだなぁ、あの馬は。あと、へんなトコで頑固だから、レース使う前にゲート入りの練習を十分にもしたほうがよさそうだ…。

 

bV5 フェブラリーS (2002.2.17) アグネスデジタル、トーシンブリザードの2頭。これが勝ち負け。

 

 新宿・中井の「又八郎」は売り切れ終いのホントの手打ち蕎麦屋だが、気取った店ではない。いつも相撲か野球などのテレビがついている。今の時期はオリンピック特番だ。それに見入っていた田中電照のケンちゃんが感心したように呟いた。

 「オリンピック見てて、いつも思ンだけどさ。なんだね。世界の桧舞台の一発勝負ってやつで、よく自己ベストなんて出せるもんだよな。オレなんかチビっちゃうね。雰囲気が違うってのは臆しちゃうね。どうもね」

 それを聞いて、店を放ったらかして油売ってるリューズバーのマスターが相づちを打つ。

 「そうなんだよな。場に呑まれちゃうってのはあるよな。この前、組合のお偉いさんと久々に銀座のクラブに行ったんだけど、こういう商売してるってのにさ、銀座なんかいくと、いらんトコで見栄張っちゃって飲んだ気がしなかったもん」

 地回りのチンピラくらいじゃ一歩も引かない腰の座ったマスターも、銀座の綺麗どころ相手では、つい浮ついちゃうらしい。中野や池袋辺りのピンサロではキレイに遊んでるらしいが… 

 ところが、いいも悪いも、こんな「気後れ」とか、「あがる」なんて神経を一切持ち合わせていない甘木君。「なーに言ってんですか」と口を出す。

 「緊張したり、見栄張るのがいけないんスよ。無理して強気に出るより、ダメと踏んだらゴメンなさい、んでいいんスよ。普段の自分のペースを変えるってのが良くないんと違いますか?背伸びしてもロクなことはないんだから」

 この甘木君の言葉に皆、納得してるようだったが、私はちょっと違うと思う。ここ一番、普段と違う舞台でテンションを上げることは悪くないと思う。平常心で望むのは既知のTPOでこそ結果を予想できるが、未知の場面ではそうではない。ベスト能力。いや、潜在するプラスαを引き出せるのは、そうした状況だからこそではないのか。それが経験とともにステップアップにつながる。例え失敗してもさ…

 私は、ぼそっと、こんな意味のことを言った。そしたら蕎麦屋の久が応えた。

 「分相応って言葉がありますが。それぁ、金持ちや偉いさんの言うことじゃないでしょうか。そうじゃなければ、諦めの言葉でしょ」

 店ん中が、しんみりしかけたところで、人生経験豊富な音さんが言った。

 「久さん。嫁を探すのだけは分相応がいいよ。いいかげんで手を打たなきゃ、高望みしてたら何時までたっても独りもんだよ」

 蕎麦屋の久は、「分相応って言い出せば、一生独り者が私の分相応すかね」と頭を掻いた。笑えない冗談だけれど、店の中は大笑いである。

 むろん、それから競馬の話になった。ダート・マイルのG1フェブラリーステークスは、クロフネがいないのは残念だが、蒼々たるメンバーが揃った。キャリアもローテもイロイロ。見方で取捨選択が一変する。ポイントのひとつは、地方の強豪馬と中央だけでなく国際的にも活躍する馬をどう比較するかにある。甘木君はアグネスデジタルとトゥザヴィクトリー、ノボトゥルーの3頭でいいと言う。蕎麦屋の久は大井の東京大賞典を叩いて、この中央ダートG1に狙い定めたトーシンブリザードが勝つと譲らない。因みに、「又八郎」はトーシン=東京信用金庫がメーンバンクである。トーシンがブリザードじゃ、店の経営も厳しいと思うのだけど…

 私は迷ったが、勝てる可能性の高い順、絶対能力の順番に買うことにしようか。展開は早い流れが予想されるが、この府中のダート馬場から見てそれでも4角好位から後続に追いつかせない馬が勝つと思う。屋根はともかく、そうしたレースができるのはアグネスデジタル、トーシンブリザードの2頭。これが勝ち負け。アグネスデジタルは、舞台も演目も気にすることはないエンターティナーとなった。トーシンブリザードは府中の馬場でダート王への道を固める器だと見た。それから、3着はマイペースでラップを刻んでトゥザヴィクトリーが残る。

 すると、カウンターの隅でひとりウーロンハイを呑んでいた歴史教師の赤川さん。来週使うプリントを作っていたパソコンから手を離し、メガネを人差し指で押し上げながら言った。

 「アグネスデジタル=トーシンブリザードで良いと思いますが。単穴ならサウスヴィグラスじゃないですかね。マイルでもハマるかもしれませんよ」

 音さんが「それはつくねぇ…」と乗る気を見せたが、私はターフヴィジョンで馬を追ってる頃までは持つが、直線坂を上がったら置いて行かれると見た。

 オリンピックも競馬も参加するものに順番が付く。精一杯やって自分を誉めるのというのもいい話だけれど、見ている方にすればメダルの行方だけに目がいくのは仕方がないかな。

 

bV4 ダイヤモンドS (2002.2.10) 東も西も3着じゃ情けない・・・・。

 

 「寒いですねぇ」と言いながら、甘木君が「すし哲」のガタピシした引き戸を開けて入ってきた。椅子に腰掛けるまえにストーブ前へ行って後ろ手で暖を採って、「うー、暖かいな。やっぱり冬はストーブだな。エアコンじゃ気分がでないよなぁ。この時代遅れの感覚がいい。あっ、熱燗ね」なんてことを言う。誉めてるんだか、けなしているんだか。親方は笑っているが、まったくもって失礼な奴だ。

 「バカ。このくらいで寒いなんて言うのは鍛え方が足りない証拠だ」

 と、わたしは叱り付けた。

 「やだやだ、先輩も相当にオヤジが入ってきましたよねぇ。すぐにそーやって精神論を持ち出すんだから・・・」

 甘木君は、まだグズグズとストーブにあたったままだ。

 「違う。精神論じゃない、体の鍛え方を言ってるんだ。お前、赤ん坊も産まれたことだし、早く帰って乾布摩擦でもして寝ろ!」

 実は、私が出産祝いの電話を甘木君トコに入れた時、奴のカミさんに「あんまり引っ張りまわさないで・・・」と、やんわりクギを刺されたのである。因みに赤ん坊の名前は、甘木君の主張した「万吉」じゃなくて、奥方の押す「泰世(たいせい)」に決まった。放蕩の父と違って、泰らかく世を生きて欲しいとの願いだろう。

 そんな妻のココロを知ってか知らずか、甘木君はカウンターの椅子に腰を降ろし、銚子を手に落ち着く構えである。

 「ま、いいじゃないすか。ちょっと引っかけて暖まんなきゃ。ところで、なんですか。 かんぷまさつ、って?」

 すると、「乾布摩擦ねぇ、久し振りに聞きましたよ。タオルで体擦る奴でしょ。寒い中裸になってさ。私も親父に昔やらされましたよ」、 親方が、懐かしそうに言う。

 そんな風にしみじみ言われると、私はつい調子に乗ってしまう。

 「そう。それから、冬んなると中学で耐寒訓練てのがあったよ。朝、始業まえ7時半くらいから学校のまわりをぐるぐる走らされるんだ」

 それを聞いて、何にでも茶々を入れる甘木君、

 「先輩の地元は、温かくて雪も降らないでしょうから、いくら冬でも楽なもんでしょ」

 「甘い。鹿児島も冬はそれなりに寒いんだ。しかも、ランニングシャツと短パン。それに裸足で走るんだぜ。前は川、後は山で、1周すれば1キロはある。当然、山道は舗装なんてされてないからグチャグチャ・・・」

 親方が気の毒そうに「何周するんです?」と訊いてくれる。

 「3周だよ。3キロだ。乗り切るには呼吸法が問題だ。川沿いの平坦な道ではヒッ・ヒッ・ヒッ・フー・フーと、3つ吸って2つ吐く。山道はヒッ・ヒッ・フー・フーと2回ずつ吸って吐く。このタイミングが極意なのさ」

 疑わしそうな目で甘木君。「ホントですかぁ、まるでラマーズ法ですね」

 「そうさ、産みの苦しみほどじゃないかもしれないが、8時15分の朝礼には走り終えてなきゃならないんだからな。間に合わなきゃ、次の日早く来て足りない分走らされるンだから」

 バカバカしいといったように甘木君が呟く。

 「昭和40年代って、鹿児島じゃ、まだ戦前なんですね…」

 確かに、今思えば理不尽な教育を受けたモンだ。冬の早朝マラソンは体力がどうのより根性の問題だろうと思う。気持ちが入らなきゃ、走ってられないもんな。

 そう言えば、今週のダイヤモンドステークス。3200のGVだ。連続開催の府中の馬場とかなんとか考えれば、根性のある力馬で勝負したい。ロードブレーブをはじめ前に行きそうなメンバーも揃い、人気になりそうな武豊のアドマイヤロードなど上がりで勝負する馬もいる。そんなこんな考えたが、軸は万葉Sを叩いてのトシザブイ。音無センセイがハンデに泣きを入れてケイコもイマイチらしいが、屋根がファロンでしぶとさが生きる展開になると見た。本格化して欲しいのだけど。相手は、柴田善臣のセイコーサンデー本線に、息を持たせばシンボリオレゴン。フサイチランハートは人気の江田照ではなんとなく買いたくない。京都きさらぎ賞はカゼニフカレテに勝ってもらいたい。

 こんなふうに、ぼーっと考えていると、甘木君は親方相手にウソかマコトか、銀座でもてた話を自慢げに語っている。

 そんなヒマあったら早く家に帰れよ、と言うつもりだったが、口を挟む前に甘木君に酒を注がれた。

 「せんぱーい。出産祝いはまだですかぁ」

 わかった、泰世くんの出産祝いに、明日から父親の根性を叩き直すことにしよう。そう、親のヴィジョンは大切である。

  

bV3 共同通信杯 (2002.2.3) 関西期待のチアズシュタルクの切れ味勝負を注目したい。

 

 「うん? 美味いじゃないか。ここの醤油が美味いのは分かってたけど、蕎麦もナカナカいけるナ。いまさら言うのもなんだけどさ」

 私が「又八郎」でセイロを1枚喰った後、言ったら、アキちゃんが呆れたという感じで蕎麦屋の久の顔を見た。

 久は、「最近、テラさんは酒と板ワサが定番ですもんね。頼んでも天抜きか鴨抜きばっかりだったから・・・」笑いながら言う。

 私は数年前に胃をやられてからずっと、酒とうどんや蕎麦なんかの流動食を主食としてきた。だが、ここ半年くらい調子がよく、それまでの反動もあって「又八郎」でも蕎麦は喰わずにいたのである。その味を今日、久し振りに思い出したというわけである。

 一体、ロクに味わいもしないで、あれこれと食い物のことについてゴタクを並べるのは愚の骨頂である。流行の大食い番組で、ゴミ箱に放り込むようにものを喰ったりする輩や、グルメ番組で見かけるフォークの先でちょいとつついただけで「おいしー」なんぞホザク女の娘(何故かおっぱいだけはデカイ)が、食味についてコメントしてはいけない。私が、「又八郎」のセイロを何ヶ月か振りに味わってみてつくづく思ったのは、体調がいいから美味い蕎麦をよけいに美味く感じたことだ。「健全な味覚は健全な肉体にこそ宿らしめたい」。精神も同じで、体だけは立派に育った今の十代、二十代の精神の未熟で不健全なことよ・・・

 今年の共同通信杯。クラッシックへ向けて、すでに有力馬が出揃った感があり、メンバーもどうもドングリのなんとやらという感じ。だけど、若い馬の成長はわからない。何かのきっかけで、図抜けた力を顕在化させることもあるし、その逆もある。ここは、健全なる肉体に健全なる精神を持ちえるかもしれない可能性の馬を探したい。軸は、芝もコースも未知数だがココモキング。なんだか勝ちきれないでいる有力馬よりも力を発揮できそうな気がする。鞍上も柴田善臣だし・・・相手は関西期待のチアズシュタルク、それにロイヤルマイル。両馬の切れ味勝負を注目したい。それと、も少し前で競馬できればサントニービンの末脚も怖いかな。京都のシルクロードSはサイキョウサンデーから総流し、小倉大賞典は懲りずにコンタクト。

 蕎麦屋の久の共同通信杯での見解だが、サスガから入ると言う。京成杯は実力が不発だったと見たようだ。もちろん、アイアムツヨシも買うという。そこそこ人気になるだろうから、江田照は気合いが乗らないと思うけどなぁ。

 でも、馬もしっかりとレースを味わってみないことには美味しさを語れない。このレースで今年のクラッシックを美味しくいただけるようない馬と出会えるだろうか。

 

bV2 東京新聞杯 (2002.1.27) 穴は帰ってきたGT馬、アドマイヤコジーン。

 

 未だに店の中にお飾りが置いてあったりして正月気分の抜けない新宿・中井の手打ち蕎麦「又八郎」。何の話から転がっていったのか、皆で失敗談の披露会になった。とくに傑作だったのが音さんの話だ。 

 ついこの間、正月の買出しに、山ノ神のお供で珍しくスーパーに行ったときのことだと言う。あれやこれやと品定めをする女房どのに付き合いきれず、音さんは店の中をぶうらぶらと見物していたんだと。そうしたら、あるコーナーにいろんな健康食品が置いてあって、「黒酢」が目にとまった。そういやぁ体に良いらしいな、と思い出した音さん、黒酢のビンを取り上げた。っとその瞬間、手を滑らせてガッチャーン。

 なにせ中身は酢だから、辺りはツーンとくる匂いでむせかえる。それに店の中は年の瀬で賑わっているから、なんだなんだと衆人の注目を浴びる。さすがは音さん、逃げ出したくなる気持ちを抑え、飛び散ったビンのカケラをオロオロしながらも律儀に集めていた。

 「そんときに、店員のおねえちゃんが駆けつけてきて、『申し訳ない』と謝るボクに、にっこりと笑って言うのよ。『いえいえ、それよりおケガはございませんか』って。いやぁ、ああいう時の笑顔ってのはホントに救われるよなァ」

 笑って話を聞いていた甘木君、

 「そうそう。もし、やってきた店員が仏頂面で『あーあ、しょうがないなぁ。まったくもー』なんて小声でもボヤかれたら、ボクなら即座に逆切れですよ」

 キツい酢の臭いが立ち込めるスーパーの店内で、呆然とひとり佇む音さんを想像して笑っていた他の面々も、「うんうん」と肯く。

 「やっぱり、笑顔だよな。心が通うよな。満員の電車の中なんかでも、そっちが押したの押さないなんて揉めるくらいなら、笑顔で『失礼しました』ですんじゃうんだ。まわりだって、朝っぱらからイヤァな気分にならなくて済むってもんさ。お互い、乗り合いの通勤電車だもんな」

 すると、修さんがしみじみと呟く。

 「そうよ、感情を表に出す前に状況を考える余裕がなきゃな。失敗を責めるだけじゃ、コトはうまく運ばねぇ。とくに人を育てる時がそうだな」

 従業員の扱いなんかで人間関係には何かと悩んでいるらしい税理士の森さんも、口を挟んだ。

 「本人が失敗の原因を分かってるんだったら、叱るのは逆効果でしょうねぇ。仕事できる人間も出来なくなってしまいますから」   

 すると音さんが、「ボクも、今度と言う今度はつくづく教えられたよ・・・」と、何かをしきりと反省している様子である。

 それを見た皆の疑問を代表して蕎麦屋の久が言った。

 「なんて思ったんです?」

  音さんは、皆の顔の見渡してから答えた。

 「今度から、盆だろうが正月だろうが、『決して女房の買い物には付き合うまい』ってね」

 確かに、人遣いの要諦はいくらでもあるのだろうが、そのひとつは失敗の経験を萎縮させずに、前向きにも持っていくことだ。またしても、無理やり競馬に話を持っていくとすれば、馬もそうなのではないか。クセも脚質もそれぞれが個性がある。例えば、ズ抜けた潜在能力を持っていても、それを発揮できないまま終わってしまう馬は少なくないだろう。

 さて、東京新聞杯は、牝馬ながら格上はスティンガー。しかし、引退レースと言われるものの59`はキツかろう。別定重量で恵まれる4歳のゴッドオブチャンス、ビッグゴールドなんかの東西金杯の好走組が焦点になりそうである。関西から騎手ともども乗り込むダービーレグノ、トッププロテクターも金杯叩いて怖い。そうなるとヘソ曲がりの私の本命は。うん、イーグルカフェ。出遅れグセに泣くこの馬が蛯名に乗り替わりでどうなるか注目したい。多分、上がり勝負となるが、4角で好位につけていれば59`も問題はない・・・と思う。本線は前走から判断して西の金杯組を優位と見てゴッドオブチャンス。それに、ダービーレグノ、ビッグゴールドの4歳有力組へ。穴は帰ってきたGT馬、アドマイヤコジーン。レース勘を取戻していればひょっとして。

 蛯名がこのところ煮え切らないイーグルカフェの気持ちをどう乗せていくか。心が通うのかどうか。

 

bV1 AJC杯 (2002.1.20) 一皮剥けたスパークホークも怖いし、素質開花で江田照のフサイチランハートも気になる。

 

 「“大吉”ってのはちょっと欲張りすぎだから、“小吉”なんかどうかと・・・」

 初詣でのおみくじの話をしてるわけじゃない。甘木君が、じりじりと待ち焦がれていた赤ん坊ようやく誕生したのだ。

 私は「今年は馬年だから、いっそのこと“馬吉”はどうだい?」とからかった。    

 「ウマキチじゃ、先輩みたいになると困ります。それにウチの奴が“吉”なんて昔の丁稚みたいだからダメっていうんですよ。ボクは好きなんだけどなぁ」

 甘木君は産まれてくる子供を女の子だと思い込んでいて、名前も「風美子(ふみこ)」に決めていた。しかし、男の子だったから悩みに悩んでいるらしい。なにしろ、姓名判断だなんだかんだと大騒ぎである。

 「とにかく、今ふうのわけわかんない名前は付けたくないから・・・」

 考え込む甘木君に、「又八郎」の何時もの面々が口々に勝手なことを言い出す。

 リューズバーのマスターなどは「“勝馬”(かつま)か“一馬”(かずま)はどうです。なんせ縁起がいい」などと、言う始末。

 さすがに、蕎麦屋の久が「競馬新聞じゃないんですから。それは可哀想ですよ。うーん、“駿太郎”なんてのは?」と、とりなした。

 週刊ホースシュートの修さんもいいね。かっこいい名前じゃないか。駿一、駿平、いっそのこと優駿てのもいいね」と賛同したのだが、

 「“駿”の字は、カッコつけすぎでいやです」

 甘木君。すんなり「うん」とは言わない。やたらと注文がうるさい。まぁ、可愛い我が子に一生ついてまわるものだから、それもやんぬるかな。

 それにしても、無責任なのはまわりの競馬バカたちだ。思考が馬から離れなれないものかね。

 「“駿”がイヤなら、正月生まれだし、“春太郎”、“優春”はどう?“ハル”と読ませれば“春来”(はるき)… そうだ“勝春”なんていうのもあるが」

 私は助け舟を出すつもりだったが、最後の一言が余計だった。

 甘木君は、「なんですか先輩! 結局、競馬ネタじゃないすか。どうせ次は、“豊”だ、“正義”だなんて言いだすんでしょ」と、またムクれちゃった。

 追い打ちをかけるように修さんが、「テラ、それに“田中勝春”がこのAJCC、騎乗すんのはミスキャストだぜ。カアちゃんがノースフライトはいいにしても、お父ちゃんがサンデーサイレンスじゃあ甘木に例えるのは、それこそミスキャストだ」と言ったから、皆して大笑い。

 甘木君はますますムクれるし、わたしの面目も丸つぶれとなった。

 そんなこんなで、甘木君のジュニアの名前が決まるまでには、まだしばらく時間がかかりそうだ。2週間の猶予がある出生届と違って、今週のAJCCの方のご指名は日曜までに決めなきゃならない。休養明けでは、強い4歳世代でミスキャストのほかにもダービー4着のボーンキングが出ているし、決め手鋭いロードフォレスターも出てくる。上がり勝負なら前2走で一皮剥けた感じのスパークホークも怖いし、素質開花で江田照のフサイチランハートも気になる。我が子の名付け程ではないにしてもあれこれ迷うところだ。そこで視点を変えて牝馬のティコティコタックから入るのはどうだろう。府中でこの距離、このくらいのメンバーならば、牡馬を抑えてもおかしくない。相手は、安田記念以来だが底力でマチカネキンノホシを厚めにミスキャスト。ティコティコからならば、そこそこ配当が付きそうだから、気配を見てスパークホークとフサイチランハートにも少し流そうか。

 因みに甘木君の本命はご誕生を祝して、マチカネキンノホシだということだ。「待ち兼ねた金の星」といことらしい。勝ったら“ノリヒロ”とでも名付けるつもりかね。

 

bV0 京成杯 (2002.1.13) 西のヤマニンセラフィムにローマンエンパイアでスンナリ・・・

 

 仕事始め(酒場開き?)の7日の夜は、正月らしく鯛のアタマと格闘した。

 場所は事務所近くの酒肴亭「いがら志」。新橋の裏通りには、派手ではないが気の利いたサカナと酒を飲ませる店が幾つかある。ここはその一軒。間口は一間そこそこの狭い店で、メニューもなくヒゲ面のオヤジが独りでやっている。だから、入りにくいのだが、入ると妙に落ち着くし、腹にたまるような肴は出ないから、当然、酒量は増える。そこのオヤジに昔から世話になっている仕事仲間の美祢ちゃんと飲るときには決まってここだ。

 誤解のないように言い添えるが、「美祢ちゃん」は名前じゃなく苗字。関西ノリがとれない中年男で、ついつい私まで突っ込みを入れたくなっちゃうのが困る。普段は六本木辺りでブイブイいわせているというウワサだけど、酒と女の楽しみを峻別する主義の私と一緒の酒席に女は添えないところは妙に義理堅い。ただ単にライバルが増えるのがイヤなだけかもしれないけれど…

 「テラよ。タイってのは身よりもアタマが美味いね。サバやイワシじゃ、こうはいかへん。丸干しやシシャモはアタマまで食えるが、美味いってもんじゃあらへんもんな」

 美祢ちゃんが兜煮の煮汁のついた手をしゃぶりながら、酔うと出る関西弁交じりで言う。前に置かれた器には、鯛の兜がきれいな骨のパーツに分解されている。

 「しかし、何時もながら目の前の食い物を平らげるのが早いな」

 私は少しづつ兜を崩しながら、天草に近い北薩は長島産の焼酎「島美人」を呑んでいたから、鯛はまだ標本にはなっていない。芋焼酎には、ちょっと甘辛い肴が合うのだ。

 「美味いもんはバクバク食わにゃ味がせえへん。だから、ヨコめしはあかん。イタメシなんか、すぐに腹が膨ってゆっくり酒も飲めへんがな」

 それに応えるかの如く、親爺さんが苦笑しながらカウンターに「ハイよ」と、椀を置いた。骨の感触を残した合鴨の粗いすり身の団子に出汁が張ってある。私も鯛はとりあえず置いといて、温かいものは温かいうちに戴くことにする。ひと口啜って、「ウマイ!」と思わず口に出る。イヤな雑味のない濁りのない澄んだ味。滋味というか、とにかく素人料理では出ない味である。

  感心したように私が言うと、美祢ちゃんがひと口ふた口で椀を空けて、

 「だけど、ここのオヤジは料理人の修行したわけないねん。教わったマンマじゃ、こういう味は出来へん。なんでもそやけど、抜きん出るにはおのれで勉強して、工夫してやな…」

 それに続く言葉は私がオヤジさんの顔を見ながら言う。

 「好きじゃなきゃね」

 オヤジは「いや…」と、照れたふうに笑った。

 そしたら、すかさず美祢ちゃんが突っ込みを入れる。

 「おまえの馬遊びと一緒や」

 私も負けずに突っ込み返す。

 「それを言うなら、おまえの女遊びと一緒だろ?」

 こういう展開になると、あと島美人のお湯割りを二、三杯は飲りながらバカ話を交わさなくては納まらない。

 さて、「勉強して工夫している」と言うのは烏滸がましいが、好きな競馬の新しいシーズンが始まった。なんとなくクラッシックの蹄音が響いてくるのが今年は早いような気がする。去年の年度代表馬がジャングルポケットに決まったばかりなのに、私の気持ちはもはや皐月賞に向けて突っ走っている。午年で正月からやたらと馬の姿を目にすることが多かったこともあるが、今週の京成杯が東京開催で例年になく本気印の馬が揃ったせいだろう。関西馬のヤマニンセラフィムにローマンエンパイア、それに中山2千をレコード勝ちしたサスガなど、クラシック戦線が楽しみな馬が目に付く。西の2頭でスンナリの可能性はかなり高いだろう。

 だが私はサニーブライアン産駒のカゼニフカレテを狙いたい。新馬戦を勝ったときから気になっていたから。その後、煮え切らないレースが続いている意外といい素材かもしれない。有力どころが出遅れグセがあったりしてまだ幼いだけに、後藤が思い切った騎乗を見せ、レース経験が生かされれば勝ち負けがあるのではないか。枠順もあるが、相手本線は同じマル父、ローマンエンパイア。去年は十五年振りかで内国産馬G1勝ち無し、最優秀内国産馬の該当馬もなし。ここらで、和食のいい素材に出てきて欲しい。距離が持つか気にはなるもののサクラローレルなら何とか… あと、展開向けばサクラエクセレントも。

 「いがら志」を出た後、近くの烏森神社で美祢ちゃんとふたり手を合わせた。そうだ、今度寄った時、オヤジさんに烏森神社は勝負事や女難除けに御利益があるのか訊いてみることにしよう。

 

bU9 中山金杯 (2002.1.5) ここはイキのいい関西のビッグゴールドから手広く流そう・・・

 

 こういうご時世だが、御用納めの28日、街を歩けばやっぱり暮れって感じだった。たぶん明ければ正月気分になるのだろう。暮れも正月もカレンダー1枚めくるだけの私ですらそうなのだから、ホントに人間ってのはメンタルな生きものである。そうだ、来年は明るく生きることにしよう。

 そこで、ちょいと年越しにゃ早いが、今年のゲン直しに蕎麦でも手繰ろうかと中井まで来た。が、「又八郎」はシャッターが降りたまんまだ。この暮れの稼ぎ時に優雅なものである。なんだが、肩透かしを食ったようで、店の前でチェリーに火を点けて(どうしようか)と思案していたら、20bくらい先の八百屋からアキちゃんが買い物カゴ抱えて出てくるのが見えた。

 私が煙草を咥えたまま、(休み?)というように店の方をアゴでしゃくってみせると、アキちゃんは肯いて、こっちに歩いてきた。

 「夕べ遅かったんで臨時休業だってさ。いい気なもんね。たぶん、すし哲か幸芳にいるわよ」

 と、だけいうと、わたしが何も言わないうちに向かいのアパートの階段を駆け上がっていった。やはり、世間はなにかと忙しいらしい。

 私同様にヒマで優雅な蕎麦屋の久は、早稲田通り沿いのラーメン屋「幸芳」にいた。私は今時めったにお目にかかれない木枠に擦りガラスのはまった引き戸をガタピシさせながらあけて声をかけた。

 「おい、寅さん。商売ほったらかしてどうしたい。さくらが心配してたぜ」

 久は、オムライスをスプーンですくい上げながら、振り向いた。

 「いやあ、大晦日に向けて、ちょっと体やすめとこうかと・・・それにしても『寅さん』は、ひどいっすよ」

 口を尖らして抗議するが、デコラ張りのテーブルにオムライスにギョーザなんか並べて、ノンキにビール呑んでるんでは、まるで迫力がない。

 「この暮れの掻き入れ時に休みなんて・・・ははん、さては有馬でちっとばかし儲けたな」

 「バカいっちゃあいけません。すっからかんですよ。もう来年から競馬やめちまおうかなんて考えてんですから」

 久はこんなことを頭を掻いて言うけど、隣のイスの上には東スポが競馬面を表にして置いてある。明日の東京大賞典の馬柱である。

 私は笑って東スポを取り上げ、馬柱に目をおとした。でも、これは、蛯名のノボトゥルーで決まりだろうから、私は買わない。それより、気持ちを切り替えて金杯だ。午年のショッパナのレースだから、気分よく当てたいものだ。なにしろ1年を明るく生きようと決めたばかりだからな。だが、金杯って難しいんだよな。しかも、中山金杯っていいながら、東京の二千なんだよなァ、今回は。枠も気になるが、軸を決めてちょっと手広く流そうか・・・うん。金杯から元気にいこう。ここはイキのいい関西のビッグゴールド。縁起を担ぐにゃいい名前だ。京都金杯は出てきたらコンタクト。一年の計はファーストコンタクトにあり。

 ぼんやり考えてたら、「幸好」のオバちゃんが「テラちゃん、ほんと久しぶりねぇ」と、やけに力一杯、私の背中を叩いた。お決まりの酒屋が景品でくれるコップにビールを注いでくれるのだが、コップのまわりはまだ洗った水で濡れている。

 「おっと、ありがとう」

 私が言うと、「たまにゃサービスしなきゃねぇ」と、大声で笑ってから.ご丁寧にもまた背中を平手で叩く。まったく、元気なババアだ。剥き出しの歯ぐきと金歯がぶら下がった裸電球の光でキラキラひかっている。

 「なんだ、蛍光灯のデンキまでぶっ壊れたのかい?」

 私が言うと、オバちゃんは、またまた平手で私をぶっ叩く。

 「そうなのよぉ。なんだが、デンキのタマが切れただけじゃないらしいのよ。いま、修理頼んでんだけどさぁ」

 そのとき「コンチワー」と、威勢良く作業服の男が店に入ってきた。見れば、田中電照のケンちゃんだ。ケンちゃんは、名前どおりにいつも元気だ。競馬やってる土日も、落合・中井近辺をデンキ工事で走り回っている。

 「あれ、テラさん。元気ないねぇ」、オバちゃんに負けず劣らずの大声を出す。

 「なーに、オバちゃんにぶたれた背中が痛いんだよ」

 と、答えるとケンちゃんとオバちゃんが声を揃えて大笑いした。久はそれでも東京大賞典の馬柱に没頭している。

 うーん、ケンちゃんの笑顔を見て迷った。エアスマップはどうかな。ケンちゃんはちょっとスマップの中居くんに似ているのだ。

 さて、オバちゃんの金歯とケンちゃんの笑顔、どっちが明るいか。どっちかで入って金杯とったら、幸好で新年会でもパーっとやることにするか。

 とにかく、午年は明るく前向きに疾駆ろうと思う。     

 

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bT3京王杯AH(2001.9.9)〜bU8有馬記念(2001.12.23)

bR7産経大阪杯(2001.4.1)〜bT2札幌記念(2001.8.19)